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祓い屋京浮シリーズ10

マオや禍津神の浮竹に狙われたりして、精神的に散々な目にあった式の京楽は、文鳥姿になると頭に10円はげをこさえていた。

「10円はげできてるぞ」

「いわないで。気にしてるんだから」

「超速再生能力でも治らないのか」

術者の浮竹がそう言うと、式の京楽は人姿に戻った。

「人の姿になっても、ほらここに10円はげが・・・・」

「むう。アデランス・・・・・」

「そういう問題!?少しは僕を労わってよ!あいたたたた」

「どうした!?」

いきなり京楽がおなかを抱えて痛み出すものだから、浮竹も顔色を変えた。

演技ではなく、本当に痛いようで、救急車をとか思って式の存在であることに気付いてその思考を、一蹴する。

「何か薬をとってくる。あと、治癒術もかけよう!」

「いたたた・・・・・浮竹、いかないで。うまれる!」

「へ?」

『どうしたの』

『そうしたんだ?』

隣の部屋で、羽毛クッションをもふもふしていた禍津神の浮竹が、術者の京楽と共に姿を現す。

「その、京楽が突然腹が痛いと・・・・回復術をかけても治らない」

『鳥・・・・浮気か?」

「へ?」

術者の浮竹には分からないようだったが、禍津神の浮竹には式の京楽の腹痛の原因が分かるようだった。

「ちゅん!」

式の京楽は、文鳥姿になるとソファーに座り、なんと卵を2つ産んだ。

「ちゅんちゅん!(僕と浮竹の子供だ!)」

「京楽が卵を・・・・・はうあっ」

あまりのことに、文鳥になった京楽はメスであることをすっかり失念していた術者の浮竹は卒倒した。

その体を、やんわりと禍津神の浮竹が抱きとめる。

『しっかりしろ』

「うーんうーん」

気絶した術者の浮竹は、式の京楽が子供を産んで、子供が京楽ママと浮竹パパというひどい悪夢を見る羽目になる。

『とりあえず、卵どうにかしないとな。捨てるか』

「僕と浮竹の卵だよ!」

『そんなはずないでしょ。鳥のメスは無精卵でも卵を産むときがあるからね。君の場合、ストレスがたまりすぎて、卵を産むって形になったんでしょ』

「ちゅんちゅん!僕の卵・・・・・」

文鳥姿でもその気になれば人語をしゃべれるので、式の京楽は取り上げられた卵を哀しそうに見ながら、しょんぼりとなった。

『庭に埋めるね。命の元にはなっていないけど、そうなる可能性のあったものだから』

術者の京楽は、そう言って取り上げた卵を庭に埋めにいった。

卵を産んだことで、腹痛のなくなった式の京楽は、気絶したままの術者の浮竹に膝枕をしてやる禍津神の浮竹に嫉妬した。

「どいて。僕が膝枕する」

人の姿になった式の京楽がそう言った。

『鳥、卵を産むのははじめてか』

「そりゃそうだよ。僕も卵産めるなんて知らなかったよ」

『今後も産みそうな可能性があるなら、術者の俺に説明しておけ。卵を産む度に卒倒されてはいろいろ困る』

「うーんうーん、京楽が卵を・・・・京楽がママで俺がパパ・・・うーんうーん」

『かなり酷い悪夢を見ているようだな』

「どいて。浄化術で悪夢を消す」

式の京楽は、立ち上がって術者の浮竹の体を預かると、浄化の術をかける。

すると、術者の浮竹が目覚めた。

「あれ?ここは・・・・はっ、俺と京楽の子供は!?」

『おちつけ。鳥というか式と人の、それも同性の間に子はできないだろう』

「むう、それもそうか。なんだかすごい嫌な夢を見ていた」

『災難だったな』

術者の浮竹の長い髪を、禍津神の浮竹が撫でる。

「僕のものだよ。あげないからね」

『誰もとろうとなんて思ってない。この鳥め』

「君がいたずらばかりしてくるから、僕は10円はげができたんだよ!」

『そうか。早く生えるといいな。育毛剤を買ってやろう』

「ムキーー」

「10円はげはストレス解消したら治るだろう」

「じゃあ、今夜の僕の相手、してくれる?」

「なんでそうなる!」

真っ赤になった術者の浮竹は、式の京楽をハリセンではたいた。

庭に卵を産めてきた術者の京楽が帰ってきた目の前で、キスをされたからだ。

『別にボクらの存在なんて気にしなくていいのに。ねぇ、十四郎、好きだよ』

『あ、春水・・・・・・・』

術者の浮竹と式の京楽の目の前で、いちゃつく二人を見て、変わったなぁと思った。

勿論、よい方向に。

その日は、術者の京楽と禍津神の浮竹は、術者の浮竹の屋敷に泊まっていった。

かすかな喘ぎ声が、2人の耳にも届いていたのは、秘密であった。


『朝早いな』

「んー。何もする気がおきない」

禍津神の浮竹に朝の挨拶をされて、術者の浮竹は物憂げな表情でソファーの上に寝転がっていた。

式の京楽の羽をつめて作った2つ目のクッションを手に。

「あのアホが・・・」

『盛ったんだろう?』

「う・・・・」

『隠してもバレバレだからな』

「客がきてるのに、あいつ」

術者の浮竹は、静かに怒っていた。

流されたとはいえ、そういう関係に陥ってもう長いが、客がきている日に盛られたのはあまり少ない。

「後で、羽むしってやる」


「へっくしょん」

寝室で、式の京楽は盛大なくしゃみをして起きて、隣に術者の浮竹がいないのに気づいて、着替えてリビングにいくのだが、盛大にハリセンが炸裂したのは言うまでもない。



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祓い屋京浮シリーズ9

『鳥臭い』

そう言いながら、禍津神の浮竹は、あげたばかりの羽毛クッションを使っていた。

「鳥臭くて悪かったですねぇ」

『鳥。こんなに羽毛を集められて、よくハゲにならないな』

「再生能力のおかげですぅ。どうせ僕は浮竹に毎度羽をむしられてるよ」

『鳥が、いらないことをするからだろう』

「う・・・・・」

図星をさされて、式の京楽は黙り込んだ。

術者の京楽と同じ術者の浮竹は、庭で結界を張り合い、お互いに攻撃をしたりして修行していた。

邪魔にならないようにと、式の禍津神の浮竹と式の京楽は、庭に出ずに屋敷のリビングでお留守番だった。

「ねぇ、鳥臭いって言ってるわりには、そのクッションよくもってくるよね」

『春水の愛用の品なんだ。だから、持ってきてる』

「へぇ・・・・・鳥くさいのに?」

『春水には匂わないらしい』

「君、嫉妬してるでしょそのクッションに」

『な、そんなことはない!』

「へーふーんへーそうなんだー」

悪戯心をちらつかせた式の京楽を、禍津神の浮竹がその頭がはたいた。

「痛い!暴力反対!」

『鳥が全部悪い』

「ちゅんちゅん!!!」

式の京楽は、旗色が悪いからと文鳥姿になって飛んで逃げようとする。

それを、禍津神の浮竹が捕まえた。

『焼き鳥にしてやる』

「ちゅんちゅん!!!」

羽をむしられて、それでもすごい速度で再生していくのが面白くなって、禍津神の浮竹は意味もなく式の京楽の羽をむしり続けた。

『何してるの、十四郎』

『あ、春水!修行は終わったのか?』

式の京楽をほっぽりだして、禍津神の浮竹は術者の京楽の元に走り寄る。

「お前、何かやらかしたのか。こんなに羽が・・・・・もったいない、2個目のクッションの材料にしよう」

「ちょっと、僕への心配はなし!?こんなに羽むしられたんだよ!」

「お前は超速再生能力があるだろう。特に、か弱い鳥の時には」

「それはそうだけど、式の君がやらかしたんだよ。怒ってよ!」

『禍津神の俺、京楽の羽をむしるときは一か所にまとめてくれ。こう散らかっていると集めるのが大変だ」

『分かった』

「なんでそんな話になるの!羽をむしられるのOKなの。酷い!」

ちゅんちゅんと文鳥姿になって、ふてくされた式の京楽は、術者の京楽の肩に止まってすりすりと、嫌がらせを(禍津神に)始めた。

『春水に触るな、鳥!!』

「ちゅんちゅん!(悔しかったら、君も鳥になってみればいい」

『むう、この鳥め!チキンソテーにしてやる』

本当にしかねない勢いの禍津神の浮竹に、術者の浮竹がその口にアーモンドチョコレートを入れて落ち着かせた。

「落ち着け、式の俺。こいつへの仕置きは俺がしておく」

術者の浮竹は、むんずと術者の京楽にすりすりしてる文鳥姿の京楽を鷲掴みにして、超速再生がはじまる前に羽をむしりだす。

「ちゅんちゅん!(ぎにゃあああああああああ!!!)」

「ふふふふふ、2つ目のクッションを作ってやる」

『術者の俺、クッションにするのはいいが、もういらないからな』

「ああ。俺が使う」

『災難だねぇ、式のボク』

術者の京楽は、式のルキアが入れてくれた紅茶を飲みながら、禍津神の浮竹の頭を撫でていた。

「ちゅんちゅん!(そう思うなら止めてよ!)」

『君の相方なんだし、好きにさせるのが一番だよ』

「ちゅんちゅんちゅんーーーーー!!!(こんな家出ていてってやるううう」

「そうか。なら出ていけ。俺は知らん」

「ちゅんちゅん!(嘘ですごめんなさい!羽むしっていいから、冷たくしないで!)」

『術者の俺、本当は出ていってほしくないんだろう?』

「う・・・・・」

禍津神の浮竹は、式の京楽の羽で作られたクッションにもたれながら、そう言った。

「で、こうなる原因はなんだったんだ」

『さぁ?』

もう、式の京楽の羽がむしられる原因を、皆忘れていた。

術者の京楽と禍津神の浮竹が去ると、術者の浮竹は2個目のクッションを作り、それを使いはじめた。

「さわりごこちはいいんだがな。ふわふわしてて」

「そりゃ水龍神でもある僕の羽だからね。浄化作用もあるし」

「まぁ、そこが術者の京楽も気に入っているんだろう。禍津神の俺はそれが気に入らないようだったが」

「僕の羽は安くないよ!」

「誰も金の話なんてしてない。そもそも超速再生があるんだから、ただも同然だろう」

「僕の羽は高いんですぅ!」

「そうか。じゃあ、今度から羽をむしるときに10円をやろう」

「たった10円!?酷い!100万はするよ!水龍神の浄化作用とリラックス効果と疲れ防止のついたクッションになるんだよ!」

「いろいろ効果があってお得なんだよな。禍津神の俺もちゃんと利用すればいいのに」

「ちゅんちゅん!!」

式の京楽は、羽をむしられる前に自分から鳥かごに入った。

「おい、京楽。羽が少し足りないんだ。むしらせろ」

「ちゅんちゅんーーーーーーー!!(いやあああああああ!!)」

こうして、また羽をむしられて、それを超速再生させる式の京楽であった。


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無題

「京楽、少し変わったか?」

「ん、分かる?暴走しちゃってから、いろいろ反省して禍津神の浮竹に修行に付き合ってもらったんだよ。これ、お土産のアップルパイ」

「式の俺に、修行とか・・・・あれは神の中でも災厄を司る神だ。大丈夫だったのか?」

「うん」

浮竹はアップルパイを受け取り、式のルキアに紅茶を入れてもらいながら、改めて自分の式である京楽を見た。

いつものちゃらんぽらんな雰囲気が消し飛んでいて、精悍な様子に見えた。

「その、かっこよくなったな・・・・・」

顔を赤くしながら、浮竹はアップルパイを口にした。

「うまい・・・・・」

「術者の僕の作るお菓子、おいしいからね。かっこよくなったでしょ?だから、今日は・・・・」

すっと尻を撫でてくる京楽をハリセンで叩いて、浮竹は真っ赤になってアップルパイを口にほうばって、京楽を文鳥姿にした。

「ちゅん、ちゅん!」

「お前という奴は、少し褒めるとそうやって下心をを出す!それがお前の最大の欠点だ」

「ちゅん~~~」

文鳥姿になった京楽は、浮竹の肩に止まって、寂しそうに鳴いた。

霊力を乗せて、文鳥姿のまましゃべる。

「がんばったんだから、ご褒美ちょうだいよ!」

「むう。今日だけだからな!」

「やったあぁ!」

人型に戻った京楽は、浮竹にキスをして、抱き寄せた。

「んっ・・・・・・」

『ありゃりゃ、お邪魔だったかな?』

突然の来訪を告げたのは、術者の京楽だった。

「な、なんでもない!そう、なんでもない。ただのあいさつだから!」

式の京楽をハリセンで殴り倒して、術者の浮竹は真っ赤になった。

『あーあ。修行つけたのに、下心は消えないのか、鳥は』

禍津神の浮竹は、殴り倒されてしくしくと泣いている式の京楽を見た。

「ちゅん!」

情けない姿をずっと晒せなくて、式の京楽は文鳥姿になって、術者の京楽の頭の上に乗った。

『おーい、頭に乗らないでくれないかな。今日は、依頼を一緒にこなすためにきたんだよ』

酷い悪霊に憑りつかれた男性が、女性を襲いレイプして殺しているという凄惨な事件が、ここ数日おこっていた。

『ボクらだけじゃあ、犯人が出る場所が分かりにくいからね。式を飛ばしても人数が足りないんだ。協力してくれるかい?』

『水龍神、修行のl成果の見せ所だぞ』

「引き受けよう、浮竹」

「あ、ああ・・・・・・。酷い悪霊か。祓うのに媒介が必要かもしれないな」

浮竹の場合、媒介は自分の血だった。

もしくは京楽の血か、ルキアの涙。

祓うのに血がいることが時にはあるので、血を流すことは気にしていないが、術者の浮竹に傷を作ってほしくないと、いつも式の京楽が血を与えていた。

『じゃあ、集合場所はここで。明日の朝10時からはりこみだよ』

酷い悪霊ではあるが、いつもはなりを潜めているため、見つけづらいのだ。


翌日。

集合場所で、術者の浮竹は長い白髪を結いあげて、女性ものの着物を着て、自分が囮になることを相談で決めた。

はじめは禍津神の浮竹だったのだが、嫌だと駄々をこねて、術者の浮竹が女装する羽目になった。

術者の浮竹は、一人で行動しているように見えて、式札にしている京楽をつれていた。

『じゃあ、気をつけて。ボクらは囮にひっかからない可能性を見て、他区域を担当するから。そのかっこ、似合ってるよ。ボクの浮竹にも着せたいくらいだよ』

『俺は、女の恰好なんてしないからな!』

『はいはい』

「かわいいよ、浮竹。食べちゃいたい」

式札からそんな声が聞こえるので、術者の浮竹は式札から器用に式の京楽の頭を出して、ハリセンで殴った。

「あいた!」

「あほ言ってないで、いくぞ。前回と前々回に犯行が行われた辺りに行く」

「君は、僕が守るから。安心して」

「ああ」


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「ひひひひ。綺麗な姉ちゃん、おれといいことして死んじゃえよ」

「うわ、これまた酷いどす黒い悪霊だねぇ。修行してなかったら、少し多めの血が必要だったかもしれないよ」

式札の京楽が姿を現して、悪霊に憑りつかれた男は困惑した。

「な、術者か!」

「正解だ。大人しく祓われろ!」

「いやだ、俺はもっと女を襲って、殺すんだああ!お前もレイプして殺してやる」

「僕の伴侶をレイプして殺すだって?」

ゆらりと、式の京楽からオーラがにじみ出る。

式の京楽は、ナイフで指を切って少量の血を流すと、それを媒介にして強力な浄化の力を出す。

京楽は、いつの間にか狩衣姿になり、水龍神の片鱗を見せて、凄まじい悪霊の霊気を相殺して、浄化してしまった。

だが、憑りつかれた男も同じような欲をもっていたので、悪霊を祓われても浮竹に襲い掛かってきた。手にはサバイバルナイフを。

「死ねええ」

浮竹は、式のマオを飛ばして、避ける。

悪霊がとれれば普通に戻ると油断していた浮竹の頬を、サバイバルナイフがかすめて、血を流させた。

「よくも、僕の浮竹に傷を・・・・・・」

暴走しそうで、しないギリギリの範囲でおしとどまり、男の首に手刀を叩き込んで、京楽は犯人を無視して、浮竹にかけよった。

「癒しの力よ・・・・・・」

「京楽、大げさだ。かすり傷だ」

「だめだよ。綺麗な顔にもしも傷が少しでも残ったら、僕が狂う」

「京楽・・・・・・んっ」

傷を癒させれ、ついでにと接吻を受けた。



『あのー。いつまでこうしてるといいのかな?』

「うわ、術者の京楽!それに式の俺まで!」

『ラブシーンは、あまり外でしないほうがいいぞ』

「違う、これは!」

「ラブシーン見たね!10万罰金だよ」

『金とるのかい』

『てもちは5万しかないぞ』

「やだなぁ、冗談だよ・・・・おぶ!」

術者の浮竹のストレートパンチを鳩尾に受けて、式の京楽はしゃがみこんでから、これ以上術者の浮竹の怒りを受けないために、文鳥姿になって、禍津神の浮竹の頭に止まった。

『鳥くさくなる!』

「ちゅん、ちゅん!」

「こんな時にだけすぐに文鳥になるなんて卑怯だぞ、京楽!」

「ちゅーーーーん!!」

怒った術者の浮竹に鷲掴みにされて、数枚羽をむしられた。

「ちゅん!(ごめんなさい、外ではもうしません)」

「はぁ。すまない、術者の京楽に禍津神の俺。悪霊は祓った。後はこの犯人を、警察につきだすだけだ」

『犯罪は犯罪だからね。罪を償うしかない。悪霊がついていたとしても、犯罪をおこしてしまったのだから、贖うしかない。かわいそうだけれど』

「かわいそうなことないよ!こいつ、悪霊がとれた状態でサバイバルナイフで浮竹をレイプして殺そうとしたんだよ!」

『なに、術者の俺をか!許せない、殺そう』

『こら、十四郎』

『あ、ごめん春水。警察だったな……』

結局、警察に引き渡された犯人は、後日6件のレイプ殺人事件で裁判を受けて、死刑判決を受けることになる。

『大丈夫か、術者の俺。襲われたんだろう?』

「ああ、大丈夫だ。頬を少し切られただけだ」

『綺麗に治ってるな。水龍神の力か』

「ああ、そうだ。前はこんなに治癒能力は高くなかった」

『やっぱり、修行の成果が出ているんだよ』

術者の京楽の言葉に、式の京楽は文鳥姿のまま、ちゅんちゅんと嬉しそうに鳴いて、術者の浮竹の肩に止まった。

「京楽、お前のがんばり具合は素直に認めてやる」

「ちゅん!」

「だからって、道端で盛るな!」

「ちゅん!」

「家に帰ったら、好きにするといい」

『『うわ~~~』』

女装しているせいで、妙に色香のある姿でそう言われて、術者の京楽と禍津神の浮竹まで赤くなった。

『その姿で誘うなんて、殺し文句だね』

「誘ってるわけじゃない。報酬だ」

『術者の俺、鳥が鼻血だしてる』

文鳥姿なのに、ぼたぼたと血を鼻から垂れ流して、式の京楽はまた術者の浮竹に鷲掴みにされて羽をむしられるのであった。







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祓い屋京浮シリーズ7

「付喪神が・・・夫を祟るのです」

「はぁ。付喪神のマーガレットちゃんですか?」

「そうです。死んだ愛猫のマーガレットちゃんをはく製にしたら、付喪神になって夜な夜な徘徊し、夫の眠りを妨げて、時には夫を食べそうに・・・・・」

金持ちのそうな婦人は、そう言ってさめざめと泣いた。

「どうか、マーガレットちゃんを祓ってやってください。付喪神を退治してください」

「依頼は受けますが、なぜに付喪神が人に害を・・・・・・」

「知りません!」

付喪神は、人に長く愛用された古いものに自我が芽生える妖怪の一種だ。

100年愛用されたものが神格化して、魂をもつものだと言われている。

依頼主のいうマーガレットちゃんのはく製は、100年なんてとてもじゃないが経っていない。

浮竹は、京楽を呼んだ。

婦人は、泣いてそのまま帰ってしまった。

「どう思う、京楽」

「うん、今日も浮竹は美人だなぁと思うよ」

スパーン。

ハリセンがうなり、京楽は文鳥姿になって逃げながら部屋にある止まり木の枝に乗った。

鳥の姿のまま、霊力を放出して話す。

「マーガレットちゃんとやらについているのは、多分動物の低級霊だと思うよ。マーガレットちゃん自体かも。付喪神ではないでしょ」

「そうだな。俺もそう思う。ほら、もうはたかないから降りて人間の姿になれ」

「チュン!」

京楽は鳴いて、浮竹の肩にとまって、その首元に頭をおしつけた。

「チュン、チュン」

「はいはい、愛してるね。俺も愛してるぞ」

「ちゅん!!!!」

「嘘くさい?ああ、適当だからな」

「酷い!」

京楽は人型になると、客間を抜け出してキッチンにこもり、紅茶をトレイに乗せて戻ってきた。

「とりあえず、依頼主の家にいかないとね」

「この茶を飲んだら向かうぞ。低級霊だろうと、殺されそうになるというのは異常だ」

「そうだね。ぱぱっと祓って、終わらせようよ。そして僕と甘い甘いスウィートな時間を・・・・あいた!」

ハリセンがスパーンと炸裂する。

「鳥。禍津神の俺に食われろ」

「酷い!家出してやる!」

「そうか。もう戻ってくるな。鍵を変える」

「ひ~ど~い~。しくしくしく」

文鳥姿になって、ちゅんちゅん鳴きながら、京楽は浮竹の肩に止まって、共に車に乗って依頼者の家にやってきた。


「ああ、きてくださったのですか、祓い屋のお方。妻が付喪神がついているなんていいますが、何もおきてません」

依頼人の婦人の夫は、はく製にしたマーガレットちゃん(猫)を撫でてから、新しい飼いネコのスコティッシュフォールドの猫を撫でた。

「マーガレットちゃんは綺麗な猫でした。私は愛しましたし、愛されていました。祟られるはずはありません」

「あなた!昨日はマーガレットちゃんのはく製に階段だから落とされかけたじゃないの!」

「あれは、俺が転んだだけだ。マーガレットちゃんは抱いていただけだし・・・・」

夫婦は、ぎゃあぎゃあとやりとりをはじめた。

「そのマーガレットちゃんを、拝借しても?」

「あ、ああ、いいですよ」

「あー。付喪神ではないねぇ。低級な動物霊・・・・と思ったら、猫又がついてるね」

「ああ、そのようだ」

浮竹は結界を張り、夫婦からマーガレットちゃんを完全に引き離して、浄化の札を張った。

「ぎにゃあああああああ!!!」

はく製のマーガレットちゃんの中から、黒い猫又が出てきた。

それに、夫婦は目を見開いて驚いていた。

「猫又でも、悪いことをするのは無視できない。祓い清めたまえ」

式の京楽を使い、浮竹は京楽に浄化の術を乗せると、京楽は水龍神としてもつ浄化の力をさらに増幅させて、はく製から出てきた猫又を祓った。

「にゃおおおおおおおおおん!!おのれ、我を虐待死させておいて、何が愛しているだ・・・・そのスコティッシュフォールドも同じ目にあっている。保護してやってくれ」

それだけを言い残して、猫又はこの世界から完全に成仏してしまった。

「猫又の言葉をまさか、魔に受けたりは・・・・・・」

「します。その猫はいったんこちらで預かります」

「シフォンヌちゃん!」

「にゃああああ」

シフォンヌという名のスコティッシュフォールドは、主人を威嚇して、浮竹の腕の中に飛び込んで震えていた。

「動物病院で診てもらいます。虐待の疑いがあれば、警察を呼びますので」

「なんだと!金を払ってやってるのに!」

「金と犯罪は別物です」

「私たちは犯罪なんてしていない!猫に少しきつくあたっただけだ!」

「それが、犯罪というんだ。動物虐待は立派な罪だ」

「そうだよ。浮竹の言う通りだね。この子、こんなに震えてる」

京楽が、浮竹の手からシフォンヌを受け取って、撫でた。

「にゃあああ」

「京楽、食われるなよ」

「何それ怖い!」

なんだかんだあって、依頼主は前のマーガレットという猫を虐待死させていたのが分かり、現在飼っているシフォンヌも虐待されていて、シフォンヌは浮竹が引き取ろうとしたのだが、鳥なので食われると泣く京楽を見かねて、保護猫として里親を見つけてもらい、引き取ってもらった。


「猫は、怖いんだよ!小鳥姿の僕を見ると襲いかかってくるんだから!」

「それは、お前が文鳥の姿になるかだろうが」

「マオだって、時折僕に襲い掛かってくるじゃない!」

マオは、浮竹のもつ猫の式神の名である。

『そうか。お前は襲われるのが好みか、鳥』

「ぎゃあ、びっくりした!禍津神の浮竹、驚かさないでよ!」

『やあ、センパイ。シフォンケーキを焼いてもってきたんだ。4人でお茶でもしないかい』

「お、いいな」

禍津神の浮竹の背後から、術者の京楽が顔を見せて、シフォンケーキの入った籠を見せる。

『早く食おう。鳥、鳥も食うのか?』

「食べます。んで鳥じゃなくて水龍神。もしくは式ね」

『焼き鳥・・・・チキンカレー・・・・・』

「もぎゃあああああ!」

禍津神の浮竹は、式の京楽の髪の毛を掴むと、式の京楽は文鳥姿になって逃げようとしたところを、術者の浮竹にわしづかみにされた。

「鳥になって逃げるな。ちゃんと、式の俺の相手をしてやれ」

「ちゅん!ちゅん、ちゅん!」

「だってじゃない。お前だけ、その姿でシフォンケーキつつくつもりか。鳥にやる菓子などないぞ」

『鳥のままの鳥にやるくらいなら、俺が食べる』

「人型に戻りますぅ!僕だってシフォンケーキ食べたいよ!」

『じゃあ、いただこうか』

3人がぎゃあぎゃあ言い争っている間に、式のメイドであるルキアから紅茶を入れてもらい、かカップを4人分テーブルに並べてシフォンケーキも4つ置いておいた。

『春水、気がきくな』

『十四郎は、そんなに鳥、鳥って、式のボクをからかわないの』

『だって鳥だし。焼き鳥にしたい』

「もぎゃあああ!!!」

「大丈夫だ京楽、お前は愛玩用の小鳥だ。食べてもまずい」

「そういう話じゃないの!焼き鳥にしようとする発想を浮かべないでよ!」

『『「だって鳥だし」』』

3人同時にはもるので、それを見ていたルキアがふきだした。

「ご主人様とお客さん、面白いです」

「ルキアちゃん助けて~」

「私は洗濯物を取り込まないといけないので。それでは」

ルキアが去っていくと、4人はシフォンケーキを紅茶を口にしながら、最近の祓い屋稼業のことを雑談しだした。

「付喪神がついてるっていいだした依頼人がいてな。ついていたのは、前に飼っていた猫が猫又になって化けたやつだった。浄化したが、かわいそうだったな」

『浄化されたのなら、そうでもないだろう。天国に行ける』

禍津神の浮竹が、出てきた式のマオを撫でた。

『この猫の非常食は、やっぱり鳥だよな?』

「ああ、うーん、まぁそうかもな」

「ちょっと、否定してよ浮竹!」

『さて、じゃあボクらはもう少しゆっくりしようと、ボードゲームの人生ゲームなんてもってきよたよ。懐かしくて遊び方忘れがちだけど』

術者の京楽が持ってきた人生ゲームをお茶の後に楽しんだ。

1位は禍津神の浮竹で、宝くじで億万長者になり、子供を4人作ってゴールした。

最下位は式の京楽で、奴隷になって売り飛ばされた先で病にかかって死んだ。

『鳥、病気には気をつけろ。性病にはなるなよ。術者の俺にうつる』

「ムキーーーー!そんなもんにはなりません!!!」

『でも、してるんでしょ?』

術者の京楽が、赤くなっている術者の浮竹に聞くと、術者の浮竹はこの話は終わりだとばかりに、ハリセンを3人に炸裂させた。

『いたい』

『あいたた』

「ちゅん、ちゅん!」

すぐに文鳥姿になった式の京楽は、慣れているので術者の浮竹の肩に止まった。

「恥ずかしいから、この話はなしだ!いいな?」

『『「は~い」』』

術者の浮竹は、術者の京楽と式の浮竹が無事帰路についたのを確認して、肩に止まったまま眠りこけている京楽の頭を撫でるのだった。




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祓い屋京浮シリーズ6

「普通のご飯が食べたい!」

鳥かごの中で、文鳥姿の京楽はそうのたまった。

また、お仕置きの途中だ。

寝ている浮竹の寝顔を見ていて、むらむらして襲ったのは京楽以外ありえない。

そういう雰囲気で流されるなら浮竹もそう怒りはしないし、同意の上で体を重ねるなら浮竹も自分に非があると認めて、回数が多いのに怒って、せいぜいハリセンで数回殴るくらいだ。

今回は、完全に京楽が悪かった。

「ごめんなさい、もうしません~~~~~~。ちゅんちゅん!!」

浮竹は、むすっとした顔で、鳥かごの中の桜文鳥姿の京楽を睨んだ。

止まり木と巣があるので、狭いが何気に綺麗に掃除も行き届いており、鳥であれば快適に暮らせるだろうが、京楽は鳥の姿をとることはあれど、本来は水龍神であり、浮竹のも人型の式だった。

『こんにちわ~。先輩、式の小鳥届けに来たよ』

『鳥が、落ちてた』

禍津神である式の浮竹が、そう言って鳥かごに入った桜文鳥を術者の京楽と一緒に届けにきた。

ルキアと海燕は、顔なじみであると知っているので、2人を通したようだった。

「お客様、今お茶をいれてきます」

『ありがとう』

『あれ、鳥がそっちにもいる。こっちの鳥は鳥じゃないのか?』

術者の浮竹もびっくりした。

手元に桜文鳥になった京楽の入った、鳥かごがある。

「こっちのほうが本物なんだ。それは、迷い鳥だな。どこかで飼われていたのが逃げ出したんだろう。飼い主が届け出をしているかもしれない。警察に届けよう」

『え、この鳥お前のとこの鳥じゃないのか』

『おなかすかせてるみたいだから、そっちの鳥かごに入れてやってもいい?』

式の京楽のマイホーム(しかし、鳥かご)に、違う桜文鳥を入れると、その桜文鳥は京楽のことをまずは無視してがつがつと餌を食べてから水を飲み、水浴びをしてから桜文鳥姿の京楽に求婚の踊りをしだした。

『この子、オスだったの』

『求婚されてるみたいだぞ。よかったな鳥。幸せになれよ。子供はたくさん作れ』

「僕も、オスなんですけど!!!!」

鳥かごの中で、式の京楽は羽をばっさばっさとふりあげて、交尾しようとしてくるオスの桜文鳥を妨害していた。

「このままつがいになるのか。それもまたよし」

「よしじゃあないでしょ!君の最強の式神が、寝取られちゃうよ!」

「寝取りは嫌だな・・・・・仕方ない、オスの桜文鳥は警察に届けよう」

術者京楽と禍津神の浮竹がもってきた鳥かごに、水と餌を設置して、なんとか鳥かごから出してもらえた式の京楽と一緒に、4人で交番にいった。

「迷い鳥ですか。ちょうど、昨日届け出があったんですよ。オスの桜文鳥を逃がしてしまった小学校3年生の女の子が、わんわん泣きながら、親と一緒に届け出をしてきましてね」

そうして、オスの桜文鳥は保護され、数時間後に飼い主の元に返ることになる。

『鳥のつがいはやっぱり鳥だと思ったけど、やっぱやることやってるから術者の俺なんだな』

『同じ桜文鳥だなんてややこしいね。でも、キミが桜文鳥になった時、何気にメスっぽいことを知って、なんか大きな秘密を掴んだかんじだね』

実は、京楽はオスとは言っているが、桜文鳥になるとメスになるのだ。

「もう、僕はしばらく小鳥姿にならないからね!オスにレイプされそうになったんだよ!」

「卵を産んで温めて子孫を増やせ」

術者浮竹の言葉に、式の京楽は泣き出しそうだった。

「ごめんなさああああいいい、もう寝てるとこ襲ったりしません!だから、待遇を改善してください!」

『寝込みを襲ったのか。鳥のくせに随分と強引だな』

『そりゃ、先輩が怒るのも無理ないよ』

いったん、術者浮竹の家に戻り、お茶をしながらぎゃあぎゃあとやりとりをしていた。

『この前、チキンカレーおいしかったぞ、鳥。鳥は鳥のくせにチキンは食えるか?』

「鳥、鳥って、僕には京楽春水って名前があるんですう!」

『鳥は鳥だ。もしくは焼き鳥』

『式のボク、十四郎の呼び方変わらないから慣れてね』

「なれたくないよ!」

「じゃあ、やっぱりもう一晩鳥かごで・・・・・・」

「ぎゃあああああ、ごめんなさい、慣れます、慣れますから鳥かごのひえとあわと水は簡便してくださいいいいいい」

さめざめと泣く式の京楽をいじり倒して、術者の浮竹は、術者の京楽と、禍津神の自分より年若い姿をした浮竹と笑いあった。


「ちゅん!!!」

いじられ続け、ついに人型でいるのを放棄した式の京楽は、文鳥姿になって、術者の浮竹の肩に止まった。

『じゃあ、今日はこのへんで。またな、鳥と術者の俺。京楽、またチキンカレーが食べたい』

『十四郎、そんなに急かさなくても、チキンカレーはちゃんと作ってあげるから、逃げないよ』

「僕を見てからチキンカレーにするって言わないでよ!」

「じゃあ、俺のところもチキンカレーにしよう。ルキアと海燕に伝える」

「あああああ、みんな僕のこと「鳥」って思ってる!」

「ああ、そうだが?お前、本体は鳥だろ?」

浮竹にそっけなく言われて、その肩でちゅんちゅんと鳴いてから、京楽は羽ばたいて浮竹の耳元で叫んだ。

「僕は君の式の京楽春水で、伴侶だよ!」

それに、真っ赤になって、術者の浮竹は、術者の京楽と禍津神の浮竹が帰っていったことを確認してから、桜文鳥の京楽を手で掴んで、鳥かごに放り込んだ。

「なんでーーー!!」

「恥ずかしいことを、人前で言いそうになるからだ。夕飯まで、そこで反省してろ」

「酷い!僕を愛していないの!」

「愛とか!そういうのは・・・・ああ、もう!」

鳥かごから出されて、人型になった京楽に抱きしめられて、浮竹は目を閉じる。

とくとくと、心臓の鼓動がお互いに聞こえた。

「んっ」

舌が絡み合うキスをしてから、そっと離れようとすると浮竹と、すでにスイッチが入ってしまった京楽と格闘になり、結局ハリセンでボコボコにされて京楽が負けるのであった。


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祓い屋京浮シリーズ5

「雷獣?」

「そうです。建設現場にあった雷獣の石碑を邪魔なので壊したら、空から雷が降ってきて、直撃ではないのですが、人が感電してしまうんです。死者もでています。どうか、空から降りてきたあの雷獣を退治してはいただけないでしょうか」

「石碑を壊されて、怒ってるんだろうね」

京楽が、依頼人に紅茶を出しながら、自分も紅茶を飲んだ。

「雷獣は気性が荒いが、そうそう人に害をなす妖怪じゃない。石碑を別の場所に建て替えても無理だっったのか?」

浮竹が、依頼人に聞くと、依頼人の工事現場の監督は、首を横に振った。

「あいている土地に移したんです。でも雷獣はあの土地に縛られているようで・・・・どうかお願いします。これ以上死者が出る前に雷獣を退治してください!」

「わかった。引き受けよう」

「人が死んでたら退治するしかないね」

依頼人は、顔を輝かせた。

「ルキア、彼を外の車まで送ってやってくれ」

「はい、ご主人様」

人型でメイドで式でもあるルキアは、依頼人を車まで送り届けた。


同じ人型の式である海燕は買い物に出かけている。

残っているのは、式の京楽。人型をとるが水龍神でもある。

浮竹のもっている式の中で最強であった。

同じくらい夜一も強いのだが、気まぐれであまり顔を見せず、猫の式神マオの食事を横取りしては、黒猫姿で町を徘徊していた。

夜一は人型になると褐色の肌をもつ、美女だ。

京楽より古くいるので、一時は京楽が浮竹にちょっかいを出す夜一に嫉妬したりしたものだ。

「死者も出ていることだし、仕方ないから退治するか。式はお前とルキアで行く」

「分かったよ。ルキアちゃんはサポート役かな?」

「ルキアの結界は強いからな。雷獣を足止めするにはちょうどいいだろう」

「じゃあ、早速出発かい?」

「もうすぐ夜だぞ。明日の朝だ」

浮竹は、窓の外から日が暮れていく様子を見ていた。


次の日、浮竹と京楽とルキアは、依頼のあった雷獣を退治すべく、建設現場にきていた。

「おお、いるいる。威嚇されてるねぇ」

ごろごろと、雲が集まって雷の音がした。

「雷獣よ!人を襲うのはやめて、大人しく封印されてはくれないか!」

「人間如きがこの俺を封印するだと?笑止。俺はこの土地を守るように、雷神様から土地に降ろされたのだ。この土地を汚そうとする人間は許さぬ。死んでしまえ」

ごろごろごろ。

がらがらぴしゃん。

雷が、浮竹のいた場所に落ちた。

「話し合いには応じてくれそうにないな」

「雷神って、あの雷神か」

「なんだ、京楽知り合いなのか?」

「いや、水龍神だった頃に何度か会ったことがある。人間嫌いの爺さんだった」

「水龍神か。神であろう者が人間の式になるなど・・・・プライドがないのか!」

雷獣は、京楽に雷を落とした。

「京楽様、大丈夫ですか?」

ルキアがすかさず結界を張り、すでに雷獣のいるフィールドはルキアの結界によって閉じられていた。

「この青二才が!雷獣である俺を閉じ込めれると思ったか!喰らえ、雷よ吠えろ!」

雷獣は、空からではなく自分から雷を打ち、浮竹と京楽とルキアに向かわせる。

その全てを、ルキアが結界で防いだ。

「雷神の子でもあろう雷獣を殺すのは少しかわいそうだけど・・・・縛!」

京楽が呪文を唱えて、雷獣の雷を出せなくして、ルキアが結界で雷獣の動きを封じた。

「おのれ、人間如きがああああ!!!」

暴れまわる雷獣は、京楽の縛で動きの大半を抑えられて、結界の中で自分で自分に向かって雷を放っていた。

「ご主人様、結界を解きます。どうか駆除を」

封印でなく、駆除するということは退治するということだ。

どんな理由があれ、人を殺した妖怪や霊の類は始末されるのが、この業界の基本だった。

「今だ、ルキア、結界を解いてくれ」

「はい!」

「うおおおおおお!!」

雷獣は吠えて、結界が解かれた一瞬の隙をついて、浮竹に強烈な雷をお見舞いする。

「反射!」

「ぬおおおおおお」

自分に自分の最大の雷を返されて、雷獣はもんどりをうって転げまわった。

「おのれええ、おのれええ、人間ごときがあああ」

「僕は水龍神でもあるんだけどねぇ」

式である京楽が、浮竹の前に立って、浮竹を守る。

「水龍神!人ごときの式になるなど」

「おあいにく様。僕は、浮竹の式になれて嬉しいんだよ。僕を怒らせようとしても怒らないよ」

「ぐおおおおお!!!!」

浮竹が呪符を何枚も雷獣に飛ばして、雷を吸収していく。

雷を吸収した呪符は粉々に崩れていく。

「うおおおお、力があああ!!!」

雷獣の本性は雷そのものだ。

「天に召されよ!調伏!」

「ぎゃああああああああ!!!」

「せめて、違う命に芽生えるように。祝福を」

京楽が、退治されて命を削られていく雷獣に小さな祝福を与えた。

すると、退治されたはずの雷獣は、芽吹く緑となって、芽を出した。

「こんな建設現場で生えてきても引っこ抜かれるだけだ。持って帰って植え替えてやろう」

浮竹が、新芽を根ごとゆっくりと掘り起こす。

「浮竹は優しいねぇ」

「別に優しくなんてない。無益な殺生はしたくなかったが、今回は仕方ない」

「ご主人様、土で汚れてしまいます。私にお任せください」

ルキアが、浮竹から植物を受け取る。

「すまないな、ルキア」

「いいえ、私はご主人様の式ですから」

「だそうだぞ、京楽。少しは見習ったらどうだ。おとついは盛りやがって」

「僕は十分浮竹の役に立ってるでしょ?式としてもプライベートでも」

「この色欲魔が!」

どこからか取り出されたハリセンで頭をはたかれると、京楽は桜文鳥になった。

「暴力反対!ちゅんちゅん!」

「ああ、小鳥になって逃げるつもりか!」

「ちゅん!」

「焼き鳥にしてやる」

「いやああああああ」

別の知り合いの術師京楽のもつ、禍津神の式である浮竹に焼き鳥と言われ、鳥扱いされたことを気にしているのか、焼き鳥をいうキーワードは京楽にとっては恐怖そのものだった。

「ちゅん!」

浮竹の肩に乗り、愛らしい姿でちゅんちゅんと鳴かれては、浮竹の怒りも静まるしかない。

「これが水龍神で俺の最強の式神だって言っても、きっと誰も信じないだろうな」

「ちゅん?」

「私は信じます、ご主人様!」

「ああ、ルキアありがとう。ルキアはいい子だな。帰りに白玉餡蜜を奢ってやろう」

「え、やったあ!」

「ちゅんちゅん!」

僕には?と聞いてきた京楽に、浮竹は冷たい視線を向けて。

「今の鳥かご広いからな。もっと狭い鳥かごに変えて、ぶちこむか」

「ちゅんーーー!!!!」

いやあああああ。

そう叫ぶ、京楽であった。

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祓い屋京浮シリーズ4

「ちゅんちゅん!!」

「だめだ、そのままの姿でいろ。盛るからだ」

「ちゅん!」

文鳥姿で、浮竹の式である京楽は特殊な結界をはった鳥かごに閉じ込められていた。

最近ご無沙汰だったので、盛ってしまい浮竹を抱いたのが昨日。朝起きると、京楽は簀巻きにされていて、風呂に入り情事の後を洗い流した浮竹がにこにこしていた。

「嫌だと言ったのに、しつこく何回も・・・・・」

「もぎゃあああああ!!」

ハリセンでボコボコにされて、しまいには文鳥姿を強制されて、京楽のその日のごはんは、ひえとあわと水だった。

「ちゅんちゅんちゅん」

「反省してます?本当か?」

「ちゅん!」

文鳥姿の京楽は必死で訴えた。

「そういえば、髪喰いを祓う依頼がきていたな。他にも術者を雇ったそうだが・・・・まぁ、共同で退治にあたればいいだろう」

「そうだよ。だから出して~」

文鳥姿で声を出すには力がいる。

京楽はもともとは水龍神であるので、力はあった。

他にルキア、海燕、夜一という人型の式を、浮竹はもっている。

その他には猫と鴉の式神だ。

ルキアと海燕は、屋敷のメイドと執事役をこなしていて、家事などをしてくれた。

「仕方ない。出してやる」

浮竹は京楽を鳥かごから出すと、京楽は人型になって、浮竹に抱き着いた。

「大好きだよ浮竹」

「また、鳥かごに戻りたいのか」

「ごめんなさい。簡便してください。それより、髪喰いは結婚前の長い女性の髪ばかり切って食べるらしいね。とある令嬢が被害にあって、それで僕ら以外にも依頼を出したみたいだよ」

「被害にあるのは未婚の女性・・・・・地域は決まってここらへんだ。次の被害が出る前に動こう」

「うん」


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『髪喰いねぇ。禍津神(まがつがみ)のキミが出るほどの相手じゃないと思うんだけど、依頼料が高いから引きう受けてはみたけど、まさか同じ術者を他にも雇ってくるなんて。よっぽど、髪喰いを退治してほしいらしいね』

それは、若い姿の京楽だった。

祓い屋業界でも名の通った、祓い屋であった。

式に禍津神の浮竹を従えていた。

『さっさと終わらせて、報酬でケーキバイキングに行こう』

『はいはい・・・・・』

式の浮竹は、ケーキが大好きだった。

負の神であるが、力は確かなもので、淀んだものを食べたりした。


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「ああ、今回の同じ依頼を受けた・・・・・」

『祓い屋の京楽春水です』

「俺は浮竹十四郎。後ろにいるのが、式の・・・・京楽春水。同じ名前でややこしいが」

『ボクの式は禍津神だけど浮竹十四郎というんだ』

「これまた、ややこしい・・・・」

『京楽が年をとったら、あんな風になるのかな?』

術者京楽の式の浮竹は、術者浮竹の式の京楽を見ていた。

禍津神である式の浮竹に、同じ式である京楽は手を振っていた。

『なんか、ちゃらいかんじがする。やっぱり、京楽はお前がいい』

『ちゃらい式・・・僕の姿をしてるだけあって、力はありそうだけどね?』

術者の京楽は、術者浮竹の式の京楽を見た。

「一応、水龍神だ。そっちの
禍津神ほどではないかもしれないが、力はある」

『神様同士の式か。強そうだね』

「よろしく頼む。俺たちは北側を当たるから、そちらは南側を対処してほしい」

『分かったよ』

『分かった』

術者京楽と式の浮竹は、南側に移動した。

「若い頃の浮竹みたいでかわいいねぇ」

「京楽、お前は飯ぬきにされたいのか」

術者浮竹と式の京楽との仲は、悪いわけではないが、術者京楽と式の浮竹のように甘いわけでもなく、それなりの関係を築いていて、肉体関係もあった。

「きゃああ!!あたしの髪があああ!!!」

北側で警戒していた浮竹の元に、悲鳴が飛び込んでくる。

「髪喰い、ここでお前は終わりだ!」

「クケケケケ、もっと髪をよこせ。若い女の髪を!」

髪喰いは子供くらいの鬼の姿をしていた。

「お前の食事も、今回が最後だ。いけ、京楽!」

「はいはい・・・・」

水を渦巻かせて、京楽は髪喰いを水の縄で戒めると、浮竹が呪文を唱え、髪喰いに浄化の術を施す。

「ぐげげげげげ、自由がきかない。術者ごときにやられてたまるか!」

髪喰いは、浮竹の白い髪に長い手を伸ばして、浮竹の白い髪は肩あたりで奪われてしまった。

「よくも、浮竹の綺麗な髪を!」

「ぐげげげげ、力が漲る・・・・なんだこの髪は。すごいぞ、女の髪を食わなくても力が溢れてくる・・・・・」

「滅せよ!」

京楽が、浄化の焔を噛み喰いに向けた。

「ぐぎゃあああああああ!!」

髪喰いは、怒った京楽の浄化の力で、滅した。

「ああ、僕の浮竹の大事な髪が・・・今、再生させるから」

「別に髪なんて・・・・・」

「だめだよ!僕は君の長い綺麗な白髪が大好きなんだから」

癒しの力で、京楽は浮竹の短くなってしまった髪を元通りにしてしまった。

「術者の京楽に式を飛ばすか。退治が終わったと」

「うん。マオ、頼むよ」

「にゃあ」

浮竹が従える猫の式を飛ばして、術者京楽たちに連絡を入れる。

お互い、依頼主のところにいって報酬をもらい、簡潔な別れを告げる。

『機会があれば、いずれまた』

『俺は別に興味ない。ケーキバイキングにいくぞ、京楽』

「術者同士の会合なんかで会ったら、よろしく頼む」

「ばいばい、かわいい浮竹ちゃん」

「京楽~~~?」

「あいたたたたた」

京楽は、式の浮竹に少し興味があるようで、主である術者の浮竹に頭をぐりぐりされていた。

「ちゅん!」

「あ、文鳥になって逃げるか!」

「ちゅん、ちゅん!」

京楽は数度羽ばたくと、浮竹の肩に止まった。

それを物珍し気に術者京楽と式の浮竹が見ていた。

「こいつ、都合が悪くなったらいつも文鳥姿になって逃げるんだ」

『でも、かわいいね』

『・・・・・・・焼き鳥・・・・』

式の浮竹の言葉に、びくりと文鳥の京楽は震えて術者浮竹の背後に隠れる。

『冗談だよ、ね、浮竹』

『夕食は焼き鳥にしよう』

文鳥になった京楽は、チュンチュン鳴いて、逃げ回った。

襲ってくる者はいないが。


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「はぁ。焼き鳥にされると思った」

「いくらなんでも、ペットにもなる文鳥を焼き鳥にする輩はいないだろ」

「分からないよ。あの浮竹ちゃん、僕をおいしそうに見てた」

「気のせいだ」

おいしそうというより、物珍し気に見ていたのを知っているので、浮竹はそれ以上言わなかった。

「この前はマオに襲われて食われかけるし、僕は文鳥から鴉にでもなろうかな」

「それはだめだ」

「どうして?」

「文鳥姿のほうがかわいいからだ」

「そうですか・・・・・」

「文鳥用の餌も鳥かごも無駄になるじゃないか」

「僕はペットじゃないんですけど」

「似たようなものだろう」

「酷い!愛がない!」

「愛が欲しいのか?」

浮竹が笑い、京楽の長い黒髪を手に取って引き寄せると、唇に唇を重ねた。

「はい、おしまい」

「え、続きは!?続きしようよ!ベッドまで運ぶから!」

「盛るな!」

浮竹は、ハリセンで京楽の頭を殴った・

「ええ、きっかけを作ったのは君でしょ!」

「昨日抱いたばかりだろう。俺は嫌だ」

「むう。じゃあ、一緒のベッドで寝るで我慢するよ」

「そうしておけ」

浮竹は、食事をして風呂に入ると、早々にベッドに横になった。

京楽も同じベッドで横になる。

「ああ、浮竹の匂いがする」

「変態か」

「君が好きだよ」

「知ってる」

軽くキスをかわして、照明を落とす。

浮竹はすぐに寝てしまい、京楽もまた力を使った疲労感からか眠りにつくのであった。


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祓い屋京浮シリーズ

「おい、起きろ京楽」

「うーん・・・げへへへへ、浮竹、愛してるよ」

「なんの夢を見てるんだ!いい加減起きろ!」

浮竹は、京楽の頭をハリセンでスパーンと殴った。

「はっ!僕の愛しいエロい浮竹が消えた!」

がばっと起き上がった京楽の目に映ったのは、正装している浮竹の姿だった。

「浮竹、どうしたのそのかっこ」

「依頼主に会うためだ。とある大会社の社長らしい。普段着ではまずいから、スーツを着た」

「スーツ姿の浮竹って新鮮だなぁ。脱がしたい」

「あほか!」

ハリセンで殴られそうになって、京楽は桜文鳥の姿になると、浮竹の頭の上に乗った。

「ずるいぞ。文鳥になるなんて」

「だって、浮竹のハリセン、容赦ないんだもの」

「そりゃ京楽相手だからな」

「酷い!」

はたから見れば、桜文鳥が浮竹の頭の上でちゅんちゅんと愛らしく鳴いているようで、実際は違った。

「とにかくお前も・・・・・ああ、めんどくさいから桜文鳥のままでいい。式だと説明すればいけるだろう」

そうして、用意した車を浮竹は運転して、とある大会社の社長に、応接室に通してもらった。


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「どうか、座敷童様をお守りください。とある退治屋が、代々我が家系の繁栄を約束してくれた大切な座敷童様を殺そうとしているのです」

「その座敷童はどこに?」

「私の邸宅の地下に」

「まさか、座敷牢などに監禁してないないだろうな?」

「チュンチュン!」

「まさか!座敷童様のために特別にあつらえた部屋で、静かにお過ごしになられております。飽きないように、術者を雇って、式で遊び相手をしてもらったりしていますし、座敷童様がその部屋を出たいと言ったことはありません。決して監禁などしておらず、地下室にいるのは座敷童様の意思です」

「ふむ・・・・その座敷童を殺そうとしている相手に覚えは?」

「商売敵のB社の手の者かと。退治屋を最近雇ったと聞きます」

「ふむ・・・・今回の敵は、同業者というわけだ」

「同業者同士の争いは、なるべくしたくないんだけどねぇ」

ちゅんちゅん鳴いていた桜文鳥が、いきなり人の姿をとったので、その社長はびっくりして腰を抜かした。

「ああ、俺の式の京楽春水。桜文鳥の姿をとるが、一応人型で俺が持っている中でも最強の式だ」

「さようで・・・・その、依頼のほうは受けていただけるので?」

「ああ、引き受けよう」

「そうだね。何もしてない座敷童ちゃんを殺すなんてひどいしね」

京楽は、浮竹用に出された茶菓子とお茶を飲みながら、一息つく。

「座敷童ちゃんは僕が守るよ。浮竹は術者を見つけて話をつけて。もしくは、不利になったら僕を呼んで。座敷童ちゃんを数時間は守れる結界をはるから」

「分かった」

こうして、浮竹と京楽は社長の邸宅の地下室にいる座敷童のところにいき、一度守ることを伝えると、座敷童はあどけなく笑った。

「お兄ちゃんたち、あたいを守ってくれるの。ねぇ、お手玉しよ?」

「はいはい、それはこっちの京楽がしてくれる」

「あ、ちょっと浮竹!?」

「式の気配がする。行ってくる」

「気をつけてね!これ、僕のお守り!攻撃を一度はじき返すように作ったやつ」

人型の紙人形を受け取って、京楽を座敷童の守り手にして、浮竹は気配のあった式がいるであろう場所へ向かった。

「隠れていないで出てこい。座敷童に手を出すことは許さない」

猫耳のついた巨乳美女の式がいた。

その式は、浮竹を見ると、微笑んだ。

「ギン、出番よ」

「乱菊、早いがな。争いもしないうちに、僕を呼ぶんかいな」

乱菊と呼ばれた式は、欠伸を噛み殺しながら、ギンと呼ばれた青年の中に消えていった。

「なんや、同業者かいな。こっちはその座敷童を処分せぇって依頼受けてるねんけどな」

「お前は・・・・市丸ギン!」

現れたのは、祓い屋や退治屋の中でもだんとつに力の強い、有名な退治屋だった。

「浮竹十四郎。人型の式神を4体。あとは猫と鴉の式神」

「どこでそれを・・・・・・」

「さぁ、何処でやろなぁ」

「座敷童には、手を出させないぞ!」

市丸ギンは、にっと笑った。

「依頼の価格安いしなぁ。まぁ、今回は退いたるわ。僕も罪のない座敷童なんて殺したくないしな」

「退いてくれるのか」

「ほな、またな」

市丸は神出鬼没で、ドロンと音を立てて、消えてしまった。

あとには、紙人形が残された。

紙人形を使って、本体でなく分身体で相手をしていたようであった。

「助かった・・・・・・・」

「おのれ、市丸ギンめ!お館様の命令を無視しおって!ええい、わしが相手じゃ!」

今度は、70台くらいのじじいの式が現れた。

術者はすぐ近く。

じじいの式は、浮竹に焼けこげるような炎を浴びせた。

ぼっと燃えたのは、京楽が念のためにと渡してくれた紙人形だった。

「京楽、来い!」

「チュン!」

「なんじゃあ、文鳥の式だと?わしをなめているのか!」

「あいにく、ただの文鳥じゃないんだよねぇ」

京楽は、人型に戻ると、水の玉を召還し、それでじじいの式を閉じこめた。

「がぼがぼ」

「そのまま溺れ死んでしまえば?僕の浮竹に手を出した罰だよ。それから、逃げようとしているそこの君、切り刻まれたくなかったら、ちゃんと顔を出して名乗りなよ」

「・・・・・日番谷冬獅郎。座敷童退治を受けたが、同業者と争えとは言われていない。こい、氷輪丸!」

氷の式を呼びだして、名乗った日番谷冬獅郎という年若い少年の退治屋は、京楽と浮竹から距離をとった。

「俺も、市丸のように退かせてもらう。お前は浮竹十四郎だろう。祓い屋の中で有名な相手とことをかまえるほど、バカじゃない」

「あれぇ、みんな退くの?バトルはなし?」

「京楽、争わないでいいならそれにこしたことはない」

「つまんないじゃない」

「京楽!」

浮竹は、京楽の頭を殴った。

「じゃあな。俺は退く」

冬獅郎は、じじいの式を回収して、去ってしまった。

「殴ることないじゃない」

「同業者で争うのは御法度だ。それくらい、知っているだろう」

「あれぇ、そうだっけ?」

「はぁ・・・・・・。依頼主のところに戻るぞ」

浮竹は、結界で守られているとはいえ、座敷童のことが心配だった。

市丸ギンや日番谷冬獅郎ほどの術者ならば、京楽の結界を破壊して、座敷藁を殺すこともできるだろう。

座敷童と依頼主のところに戻ってくると、2人とも無事だった。

だが、様子が変だった。

「あたいは、もう役目をまっとうした。汝らの一族に莫大な富を与えた。もう、自由になりたい」

「座敷童様、そんな我儘を言わずに!」

「いやじゃ。自由になりたいのじゃ」

「依頼主さん、座敷童を自由にさせてあげてくれ。あんたは十分に富を築いただろう」

浮竹の言葉に、依頼主は血走った目で頼みこんでった。

「どうか、座敷童様をこの地に呪縛してください!」

「そんなのいやじゃ!」

座敷童は、京楽の後ろに走ると、その陰に隠れた。

「さぁ、早く座敷童様に呪縛を・・・・・・」

「断る」

「同じく」

「なんだと!依頼料をとっておきながら、依頼主に逆らのか!」

「依頼を受けるも止めるも、術者の自由だ。何百年もこの座敷童の世話になってきたんだろう。もういい加減、解放してやれ」

「いやだ、私は、座敷童様の力でもっともっと、もっといっぱい金を稼ぐのだ・・・・」

「あーあ。低級霊が憑いてるね」

「そうみたいだな。祓うぞ」

「分かったよ」

浮竹は京楽に命じて、清浄なる結界を依頼主周囲に張り巡らせる。そして、穢れなき神の水を満たして、依頼主に憑いていた低級霊を祓った。

「あれ、私は?」

「君、霊に憑りつかれていたんだよ。金に目をくらませすぎてね」

「座敷童様・・・・・」

依頼主は泣き出した。

「ああ、もう、手のかかる主じゃのう。仕方ない、そなたがあの世にいくまでは、まだこの土地で、そなたの一族の繁栄を手助けしよう」

「座敷童様!!」

依頼主はわんわん泣いて、座敷童を困らせた。


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「じゃあ、この結界から、むやみに外に出ちゃだめだ。この結界は君を守るためのもので、特殊な術だ。祓い屋や退治屋から、姿も見えないし認識もできない。ここから俺が離れれば、俺も認識できなくなるから」

「すまんのう」

「浮竹って優しいでしょ」

「そうだのう」

「僕のお嫁さんなんだ。ふがっ!」

「誰が誰の嫁だ!」

浮竹は、京楽の股間を蹴り上げた。

「ぬおおおおおおおお」

じたばたする京楽を置いて、浮竹は歩き出す。依頼料はちゃんともらったし、同業者に根回しして、座敷童は去ったと認識させた。

「ちゅんちゅん!!!」

ばたばたともがきながら、桜文鳥になった京楽が、浮竹の肩に止まった。

「全く、お前は・・・・・・」

「ちゅん!」

「しゃべれるだろうが!」

「痛ひ・・・・・・」

「だろうな。そうなるように蹴ったからな」

「酷い」

「知るか」

「クスン。浮竹、好きだよ」

はためからは、文鳥がチュンチュン啼いて、飼い主がそれに答えているように見えた。

「帰るぞ」

「うん。帰ろう」

ルキアや海燕の待つ、マイホームに帰ることになった。

数日の出張になったが、2人ならうまく家を守ってくれているだろう。

「ねぇ、あの市丸ギンと日番谷冬獅郎って子、同じ系列の退治屋かな?」

「市丸ギンは単独だ。日番谷冬獅郎のほうは、術者日番谷家の一門だろう」

「何はともあれ、同業者と争いにならなくてよかったよ」

「そうだな」

自宅について、家の中に入る。

「おかえりなさいませ」

「おかえりなさい」

ルキアと海燕が、出迎えてくれた。

「ああ。ただいま」

「ただいまー」

浮竹と京楽は、着の身着のままで、そのままベッドに横になってすぐに眠ってしまった。

特殊な、座敷童を守る結界をはるのに丸一日を要したのだ。

くたくたで、眠気がすごくて、我が家に帰ってきてすぐに寝た。

「主、食事は・・・・・」

答えはなかった。

ルキアは、作った食事を冷蔵庫にいれた。

海燕は、たまった洗濯物を洗いにいった。

「ご主人様から、違う式の匂いがする。同業者と、いさかいでもあったのだろうか」

「それは俺たちには関係のないことだろう。どうせ、京楽が戦闘に出るだろし」

「むう、海燕殿は冷たい!」

「主のことは守るけど、あくまで俺たちは式だ」

「それは分かっているが・・・・」



「あああ、いいよ、いいよ浮竹すごい。すごいぬおおお、そんなこともしてくれるの!?」

眠っていた浮竹は、隣でうるさくわめきながら寝ている京楽を、ベッドから落とした。

「ああああ!あれ!?」

「文鳥になってろ!この盛りのついたばかが!」

「ちゅん!ちゅんちゅん!!」

浮竹の呪文で強制的に桜文鳥の姿にされて、鳥かごにぶちこまれて、京楽は浮竹が目覚める5時間後まで、鳥かごの中でちゅんちゅんと鳴き続けるのだった。

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無題

「今日も平和だなぁ」

「そうだねぇ」

魔王浮竹と勇者京楽は、中庭でまったりと午後の紅茶を楽しみながら、新勇者がモヒカンを三つ編みにしている光景を見ていた。

「るるるる~~髪の手入れは丁寧に~~」

新勇者は、何故か魔王城にやってきて、風呂をかりてアデランスで植毛した長いモヒカンの髪を丁寧に洗い、ふっさふさになると中庭で三つ編みにしだした。

「あれ、切ったら泣くかな?」

「泣くでしょ、そりゃ」

「そこの侍女、紅茶のおかわり~」

少年魔法使いが、侍女を呼び止めた。

少年魔法使いや女僧侶、獣人盗賊に青年戦士といった新勇者のパーティーもきていて、浮竹と京楽と同じようにテーブルについて、午後の紅茶を楽しんでいた。

「あー、ここのお菓子おいしいわぁ」

女僧侶は、タッパーを取り出してお菓子をつめこんでいく。

「あ、持ち帰りは禁止だ」

「えー。ちょっとくらいいいじゃない」

「だめなものはだめだ」

浮竹が言うと、女僧侶は仕方ないとタッパーをしまい込む。

「ああ、平和だ」

浮竹は、ぼけーっと空を見上げた。

京楽もついでに空を見上げた。

新勇者のパーティーも空を見上げた。

鷹が一羽、空を飛んでいた。

「るるる~~~~~ぎゃあああああああ」

ぺとっ。

鷹のふんが、新勇者の大切な大切なモヒカンを直撃した。

「う、ウォーターリフレッシュ!!」

水の浄化魔法でモヒカンを綺麗にしながら、新勇者は鷹に向かって人工聖剣エクスカリバーを投げたが、届かずに戻ってきて、新勇者の足に刺さった。

「ぎゃああああああ!!!」

新勇者は、貧乏のスキルを覚えていた。

(貧乏のスキル、とばっちりを覚えました。LVがあがりました。貧乏のスキルがカンストしました。ド貧乏のスキルを習得しました)

ピロリロリン。

そう音がして、新勇者が魔王城の風呂を借りる前に、アデランスのモヒカン三つ編みにする時に借金を背負いこんで、破産して風呂に入ることもできない暮らしになっていたので、あまりのくささに、浮竹は風呂を貸してやった。

1カ月は風呂に入っていなかったらしく、ただモヒカンの三つ編みだけはいつも手入れしていたらしい。

「平和だな」

浮竹は、新勇者の存在などないように、カップの紅茶を飲み干した。

「うおおおおおい、これのどこが平和だ!魔王め、俺のモヒカン三つ編みの輝きに嫉妬して、平和だと現実逃避しているな!?」

「カラミティファイア」

「ぎゃああああああ!!!」

京楽が、新勇者の足元を燃やした。

「モヒカン失うと、君、帰ってこなさそうだから、足にしておいたよ」

「そうか、それはありがとう勇者京楽・・・・じゃねえええ!!!何しれっと俺を攻撃してるんだ!」

「そういう君は、何しれっと敵の魔王城の風呂かりて、さっぱりして、あげくに午後の紅茶に参加しているんだい?」

「魔王は俺が倒す。この城はいわば、未来では俺のもの。だからだ!」

「カラミティウィンドエッジ」

ぱさり。

一房、新勇者のモヒカンが風の魔法で切りとられて、地面におちた。

「うわあああああ!!!俺のモヒカンがああああ!!!鬼、悪魔、魔王!」

「俺は魔王だがな」

風の魔法を放った浮竹が、そう答える。

「本当なら、ラーメンマンみたいになってほしいから、モヒカンの一部を残して魔法で切ってしまおう」

「いやああああああああ!!!」

浮竹と京楽は、にこにこしながら、魔法で鋏を操り、新勇者のモヒカンを辮髪(べんぱつ)にした。

新勇者は、泣きながらそれを三つ編みにした。

「俺の髪があああああ・・・・・でも、まだある。あるだけまだましだ・・・・」

(ド貧乏のスキルがLVマックスになりました。スキル、髪の毛ラーメンマンを獲得しました。ド貧乏のスキルが貧乏神になりました。アルティメットスキル、貧乏の運命を覚えました)

「さっきから、貧乏やらのスキルを覚えているようだが、負のスキルはマイナスにしかならないぞ」

「ええ!貧乏になったら幸福になるって、あの錬金術師言ってたのに!金貨10枚も払ったのに!」

「ねえ、この新勇者って、やっぱりおつむが・・・・・・」

「言ってやるな」

「おつむはくりっくりです!」

新勇者は、覚えたスキルを捨てようとして、捨てれないことに気付いて、浮竹を見た。

「魔王倒せば、リセットできるはずなんだ・・・・・」

人工聖剣エクスカリバーを引き抜き、浮竹に剣を向ける。

「本気か、新勇者」

「ああ、本気だとも!てやぁ!」

浮竹に切りかかる時に、足でバナナの皮を踏んづけて転び、新勇者は転んだ。

その喉元に、京楽が本物の聖剣エクスカリバーを突きつける。

「浮竹に何かしたら、その首が胴から離れるからね」

「ううう・・・うわああああああん」

新勇者は、京楽を押しのけて、パーティーのところにいくと、泣いて援護を頼んだ。

「私たち、今日は非番だから。新勇者一人で対処してね」

「僕らを巻き込まないでくれるか。一応魔王とは、ある程度の友好関係を築けているから、新勇者にはきてほしくないね」

「うわあああん!仲間が俺をいらないって言ったあああ!!!」

「そこまでは言ってないだろ」

浮竹がそう言うと、獣人盗賊がポーションを取り出して、新勇者に飲ませた。

「変なスキルカードを買って、覚えるからにゃん」

獣人盗賊は、猫系だった。

「仕方ないから、ツケで元に戻してあげたにゃん。このポーション高いから、馬車馬のように働けにゃん」

ぐすんぐすんと泣く新勇者を、優しく撫でるように見せかけて、足で頭をぐりぐりした。

「おら、これからお前はあたしの奴隷にゃん。モンスター狩りまくって、借金返済するにゃん」

「うわあああん、奴隷やだーーーー」

新勇者は逃げ出して、浮竹の背後に隠れた。

「やる」

浮竹はそれをつまみ出して、獣人盗賊に引き渡した。

「鬼、悪魔、魔王!」

「だから、俺は魔王だ」

「うわああああああああん」

「うるさいにゃあ。股間のものもぎとると静かになるにゃん?」

ぴたっと、新勇者の泣き声が止まる。

「そ、それだけは勘弁してください」

一度されかけたことがあるのか、冷や汗をいっぱいかきながら、恐怖の表情で獣人盗賊に縋りつく。

「さぁ、今日から2週間は休みなしでモンスター退治して、素材売って金にして、借金返済してもらうにゃん!」

「魔王、後生だ、助けてくれ!」

「やだ」

「そうか、やだか・・・えええええ!!なんで!」

「なんでって、俺は魔王でお前は新勇者。敵同士だからだ」

「俺、実は魔王様を崇拝しているんです」

「カラミティファイア!」

「もぎゃああああああ!!!!」

業火に飲まれて、嘘つきの新勇者は、服まで黒焦げになるのだが、ラーメンマンの髪だけは無事で、フルチンで魔王城を走りまくるという奇行に走り出して、浮竹に迷惑をかけまくるのであった。

「ちょっと、新勇者、せめて股間に葉っぱだけでもつけなさい!」

京楽が、フルチンで走り回る新勇者を捕獲して、股間に葉っぱをつけた。

その姿のまま町を徘徊して、新勇者は露出狂だという噂がたつのであった。




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堕天使と天使外伝

小さくなった。

いや、冗談ではなしに。

フェンリルの浮竹と天使の浮竹は、堕天使の京楽が闇のオークションで競り落としたという特殊な呪詛の魔石を与えられて、小さい10歳くらいの子供になってしまった。

「ああ、フェンリルの君まで小さくなる予定じゃなかったんだけど」

『なんだこれは!』

フェンリルの浮竹は、服も一緒に小さくなっていたので、尻尾をぴーんと立ててから、天使の浮竹の影に隠れた。

『怖い』

「フェンリルの俺?どうした」

『子供の頃の記憶が・・・・怖い、怖い』

「おい、京楽!このバカ、なんでフェンリルの俺も巻き込んだ!」

「いや、そんな予定じゃなかった・・・・君だけを小さくしようとしたら、フェンリルの君も魔石に触れたものだから」

『とりあえず、説明してね?』

にこにこと微笑んではいるが、すごい圧力のヴァンパイアの京楽に怒られてお説教されて、堕天使の京楽はこってりとしぼられて小さくなった二人の前に再び姿を現した。

「調子に乗ってました、すみません」

「いつ元に戻るんだ、これは」

「あああああ、小さい浮竹かわいい!(*´Д`)ハァハァ」

「ええい、苦しいから思い切り抱きしめるな!」

天使の浮竹は、堕天使の京楽に思い切り抱きしめられて、嫌そうにしていた。

一方、フェンリルの浮竹は、ヴァンパイアの京楽の抱き上げられて、その首筋に腕を巻き付けて、ぎゅっと抱き着いていた。

『解呪できる魔石を買ってくるから、浮竹をお願い』

「ああ、俺が守ろう。京楽は変態なだけであてにならないからな」

『くっさい洗ってないパンツの京楽だけはいやだ!』

子供の頃の記憶に翻弄されて、最初は怯えていたフェンリルの浮竹だったが、大分慣れてきたのかいつものツンデレが復活していた。

「だから、僕はくっさい洗ってないパンツじゃないよ!その匂いがするんでしょ!匂いを省略しないでよ!」

『お前なんて100年洗ってない黒ずんだパンツだ。このパンツ星人!ラフレシアパンツ星人!』

「言いたい放題・・・・しかし、今回は僕に非があるからねぇ。ぐぬぬぬぬ」

「フェンリルの俺、せっかく子供の姿になったんだ。子供料金でいける、子供だけしか入れないアトラクションに行こう!」

『なんだそれは!面白そうだな、行く!』

天使の浮竹は、フェンリルの浮竹を心配して誘ったのだが、フェンリルの浮竹は最初の怯えようとは打って変わって、好奇心むき出しの子供のようになっていた。

いや、姿も子供なのだが。

子供になったフェンリルの浮竹は、ばっさばっさを尻尾を横に振って、堕天使の京楽をいやいや保護者として付き合ってもらい、天使の浮竹と手を繋いで、ゆっくり歩きながら、アトラクションに入って1時間ほどの子供心をくすぐるいろんなアトラクションを天使の浮竹と2人きりで過ごした。

『クレープが食べたい』

フェンリルの浮竹が、アトラクションを終えてぽつりとつぶやいた。

「はいはい。買ってくるよ。大人しく、ここにいてね」

『天使の俺、遊んでくれてありがとう!お陰で、嫌な記憶も吹き飛んだ!』

「ならよかったよ」

フェンリルの浮竹は、天使の浮竹と手を握りあって、ぶんぶんと尻尾を振りながら、堕天使の京楽がクレープを買って帰ってくるのを待った。

『バナナ味がよかったのに』

いちご味を渡されて、耳をぺたんとするフェンリルの浮竹に、天使の浮竹が自分の分のバナナチョコ味のクレープを渡した。

「交換しよう。チョコ味も入っているが、バナナ味も入ってる」

『天使の俺、大好きだ!』

ほっぺにちゅっとキスをされて、天使の浮竹は目をぱちくりさせた。

「やー、何あの子かわいい。耳と尻尾がついてるわ」

「双子かしら」

何やら視線を集め出して、堕天使の京楽は、フェンリルの浮竹と天使の浮竹を両腕でそれぞれ抱えて、移動した。

「一人で歩けるのに」

『洗ってないパンツのくせに』

「ついには『京楽』も消えたまま!?」

ばっさばっさと尻尾をふって、耳をピコピコさせて、フェンリルの浮竹はバナナチョコ味のクレープを食べて、天使の浮竹からいちご味のクレープも少しもらって、何気にご機嫌だった。

洗ってないパンツにされた堕天使の京楽は、天使の浮竹も楽しんでいるので、今回ばかりはあまり嫉妬せずに、保護者役を完遂した。


『おかえり。その顔だと、どこかへ遊びに行って楽しんできたみたいだね』

洋館に戻ると、ヴァンパイアの京楽が元に戻る魔石を準備していた。

『京楽、あと1日子供のままでいる!』

『ええ!?』

『天使の俺もいいよな?もっと遊びたい!』

「お前がそう言うなら、俺は構わないが」

『そういうことで、百万年洗ってないパンツも、いいな?』

「もう、呼び方が無茶苦茶だ・・・・いいけどね、別に。でも、夜は・・・・・・」

『夜はもちろん、天使の浮竹と同じベッドで寝るぞ!』

「きいいいいい」

我慢していたが、嫉妬が復活しだした堕天使の京楽を置いて、天使の浮竹とフェンリルの浮竹は、もう1日子供の姿を楽しんだ。

食べるのも隣で、一緒に風呂に入り、寝る時も一緒だった。

大人の姿では、あまりできないことなので、フェンリルの浮竹は喜んでスキンシップを楽しんで、堕天使の京楽に嫉妬されまくった。

ヴァンパイアの京楽は、あくまで見守る形で、愛おしそうに浮竹たちを見ていた。

「君は平気なのかい。自分の伴侶がとられて」

『浮竹は、最後はちゃんとボクの隣にいてくれるからね。分かっているから、嫉妬はしないよ』

「僕は嫉妬しまくりだよ。ああ、でも楽しそうだなぁ」

『天使の俺、秘密基地を作ろう!薔薇園に行くぞ!』

「ああ、待ってくれ」

子供姿のまま、精神も子供になっている二人は、そのまま結局自然に解呪されるまで、1週間は子供姿でいたそうな。


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堕天使と天使外伝

「金貨5枚」

『買った』

堕天使の京楽は、ヴァンパイアの京楽にフェンリルの浮竹と天使の浮竹が二人でデートした時に、隠しカメラで撮った写真を売りつけていた。

「こら、京楽!何を売ってるんだ!」

「浮竹がフェンリルの浮竹とデートという浮気をした証拠写真」

『浮気じゃないぞ!本気だ!』

フェンリルの浮竹の言葉に、堕天使の京楽は飛び上がった。

「本気だって!許せない!浮竹は僕のものだよ!」

『天使の浮竹はお前のものじゃない。誰のものでもない』

「いいえ、僕のものですぅ。浮竹はあげないからね!」

堕天使の京楽は、フェンリルの浮竹に舌を出して、天使の浮竹を抱きしめた。

『ぐぬぬぬぬ』

「おいこら、2人とも俺は俺のものだ」

『だ、そうだよ』

ヴァンパイアの京楽が、溜息まじりに威嚇しあう堕天使の京楽とフェンリルの浮竹の仲裁に入った。

『天使の俺、デートしよう!今回は山にピクニックに行こう』

「え、あ、まぁ構わないが」

「無論僕もついていくからね!」

『ボクもついていくけどねぇ』

『デートだから、距離はとってくれよ』

フェンリルの浮竹は、天使の浮竹の了解をもらい、嬉し気に準備をしだした。

「え、今から行くのか」

『今からだ!』

「分かった、軽装に着替えてくる」

『あ、俺の服を貸してやる』

「あ、ああ」

「きいいいいい」

嫉妬で燃える堕天使の京楽に、フェンリルの浮竹は。

『バーカ、バーカ』

とバカにして、尻尾をぶんぶん振っていた。

堕天使の京楽をこけにできるのが、よほど嬉しいのか、はたまた悪戯心がくすぐられるのか。

こうして、4人は浮竹のデートという名のピクニックに出かけた。


「ぐぬぬぬ、手を握り合ってる」

『それくらい、いいじゃない。かわいいもんだよ。かわいい子二人ではしゃいじゃって、見ているこっちは・・・・キミは悔しいんだろうけど、ボクは微笑ましいけどね』

「きいいいいいいい」

堕天使の京楽は、フェンリルの浮竹の行動に嫉妬心をあおられまくっていた。

『京楽、昼ごはんにしよう。堕天使の京楽の飯はちなみにない。めざしならあるから、それでもかじってろ』

フェンリルの浮竹は、ヴァンパイアの京楽が作ってくれたお弁当をシートの上に広げた。

フェンリルの浮竹と、天使の浮竹、ヴァンパイアの京楽でご飯を食べる。

ちなみに、堕天使の京楽は隣のシートで、弁当を用意していなかったので、めざしをかじっていた。

「めざし、案外うまい」

『バーカバーカ。3回周ってワンをしたら、お前の分の弁当を出してやる』

「きいいいいい!僕はめざしが好物なんですぅ!」

「フェンリルの俺。あんまり、京楽をいじめないでやってくれ」

『ん、ああ、そうだな。仕方ない、弁当をやる』

フェンリルの浮竹は、何気に用意してあった堕天使の京楽用のお弁当を渡した。

「なんだかんだいって、お前たち二人、そこそこ仲はいいよな」

「そんなことないよ!こんなツンデレ!」

『そうだ、こんなずっと洗ってないパンツの京楽なんて!』

フェンリルの浮竹の言葉に、堕天使の京楽が反論する。

「ちょっと、洗ってないパンツの匂いでしょ!まるで僕が洗ってないパンツそのものか、それをはいているような言い方はよしてよ!」

『ふん、似たようなものだろう。臭いお前が悪いんだ』

「かわいくない!」

堕天使の京楽は、フェンリルの浮竹の尻尾がぶんぶん振られていることに気付いていなかった。

フェンリルの浮竹は、堕天使の京楽とのやりとりを心の底では楽しんでいた。

「ツンデレめ!」

『ツーン』

そんな二人のやりとりを見て、ヴァンパイアの京楽は笑っていた。

『おもしろい二人だね』

「フェンリルの俺、尻尾ぶんぶん振ってる」

『指摘しないであげてね。きっと恥ずかしがるから』

フェンリルの浮竹は、天使の浮竹と手を繋いで、歩き出す。

『俺たち、前世は双子だったのかもな』

「ああ、そうかもな」

天使の浮竹は尻尾をぶんぶん振り続けているフェンリルの浮竹がかわいくて、握っていた手を握り直す。

「あああ、また距離が近い!」

堕天使の京楽は、また嫉妬でもやもやしていた。

それを、ヴァンパイアの京楽は和やかな視線で、全体を見つめる。

『まぁ、いいじゃない。浮竹二人は楽しそうだし』

確かに、フェンリルの浮竹も天使の浮竹も楽しそうにしていた。

嫉妬でパンクしそうな堕天使の京楽は、我慢しまくった。

結局、ピクニックは4時間ほどで終わり、帰路につく。

『いたたたた』

『どうしたの、浮竹』

『足をくじいた』

フェンリルの浮竹がうずくまる。

「シャインヒーリング」

堕天使の京楽が、自然と回復魔法をかけてくれた。

『こ、こんなことしても、点数稼ぎにはならないからな!でも、ありがとう』

「どういたしまして・・・・・普通に接してたら、かわいいのに」

堕天使の浮竹の「かわいいのに」という言葉に、フェンリルの浮竹は真っ赤になった。

『ばか、あほ、まぬけ!』

尻尾をピーンと立てながら、まくしたてる。

「はいはい。どうせ僕は洗ってないパンツの匂いの京楽ですよ」

『あり、が、とう』

ぶんぶん尻尾をふって、フェンリルの浮竹は、つたない言葉で再度ありがとうと言った。

その光景を、天使の浮竹とヴァンパイアの京楽が和やかな笑みを浮かべながら見ているのであった。



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堕天使と天使22

「人を襲う人狼が出るんだ。しかも、ミスリルゴーレムの護衛つきの」

冒険者ギルドのギルドマスターである男の娘は、浮竹と京楽に依頼を出した。

ミスリルゴーレムは、ミスリルでできており、硬くて普通の刃物や魔法は通じない。

人狼が出る場所は人里離れた村で、夜の月のない晩に決まって出没して、人をすでに10人は殺害しているらしい。

「場所も遠いし、君たちに行ってもらいたい」

「ああ、分かった」

「頼んだよ」

「人狼かぁ。普通は人は襲わないんだけどね。しかもミスリルゴーレムの護衛つきとか・・・・どんな人狼なんだろうねぇ」

「少女だそうだ」

ギルドマスターは、そう言って言葉を紡ぐのをやめた。

「少女か。いかに幼くても、人に害を成すのであれば駆除するしかないな」

浮竹はあまり気乗りしなかったが、依頼はこなすようだった。

「じゃあ、月のない晩は3日後だよ。移動に丸1日かかるから、もう今からでも出発して、襲撃に備えよう」

藍染は、いつ目覚めるかも分からぬ眠りについており、市丸ギンもこのところ出没していない。

力を奪われた、浮竹の父である大天使長ミカエルは力を取り戻し、今のところ問題はいつ藍染と市丸が襲撃してくるかの問題で、それ以外はなかった。

「じゃあ、もう今日の夜に出発しよう。移動に1日かかるらしいから、休憩を挟んで1日と少しだな」

「僕がずっと車を運転するよ。一週間くらい眠らなくても平気だからね」

「それはだめだ。俺が許さない。京楽には万全の体制でいてほしい」

「分かったよ。じゃあ、間を挟みながら、休憩しつつ移動で」


浮竹と京楽は、車ではなくアイテムポケットに、食料と水、毛布などを入れた。

何かあるか分からないので、回復用のポーションも準備していた。

「じゃあ、移動しよう」

「ああ」

眠くなるだろうに、ヒーリング系の音楽を鳴らしながら、京楽の運転する車は猛スピードで走り出す。

浮竹は、アイテムポケットから取り出した小説を読みながら、京楽の運転に身を任せていた。

休憩を挟んで仮眠して、1日と少しばかり。

人狼の出るという村についた。

「ああ、あなたが退治人の・・・・・・」

「はい、依頼を受けてきました」

「お願いします!もう10人も殺されているんです!お金はなんとかかき集めました!」

それでも、金貨40枚くらいだった。

貧しい村のようで、普通に冒険者ギルドに依頼するには倍以上の金貨500枚はいる。

そんな内容の、依頼だった。

冒険者ギルドのギルドマスターは、謝礼額が低い仕事で、人が死んだりするような案件を回してくる。

まぁ、浮竹と京楽は祓い屋というか退治屋として動いており、依頼の報酬金額が少ない依頼でも受けた。

「明日、月のない晩になります。村のどこかにいれば、襲われるんです。とにかく血の匂いに敏感で、この前の駆除に失敗した冒険者さんは、豚の血をまいておびき寄せていました」

「じゃあ、俺たちにも豚の血を工面してくれないか。おびき出して確実に、息の根を止める」

「はい、用意しますので、今日は村長の家で休んでください。明日の晩に備えて」

「分かったよ。村長の家はどっちかな?」

「あの丘の上にあります」

村人は、村長の家を指さした。

浮竹と京楽は、村長の家で1日厄介になった。



「さて、夜になったよ、浮竹。豚の血を、村の外れにまこうか」

「ああ、そうだな。念のため村人には村の外に避難してもらったし」

2人は、豚の血を村の外れにまいて、時を待った。

深夜の3時頃になり、かさかさと草むらが動いた。

人外の気配を察知して、浮竹が動く。

「カラミティファイア!」

「きゃあ!」

それは、本当に少女というにも幼い襲撃者だった。

8歳くらいの、女の子んお人狼だった。

「おのれ、冒険者か!この前みたいに、血祭にあげてやる!コウ、おいで!」

クルルルルーーーー。

機械音を出して、ミスリル製のゴーレムが現れた。コウという名前らしく、まずは京楽に襲いかかってきた。

「シャイニング!」

「きゃあ!」

人狼の少女の目を潰して、ミスリル製のゴーレムを、京楽は地獄の炎で溶かす。

「ヘルファイア!」

ドロドロと溶けていくコウを察知して、人狼の少女は叫んだ。

「おのれ、母様を辱めて殺し、父様を拷問して殺し・・・・この村の連中を庇うか!一緒に殺してくれる!」

「ちょっと待って!その、母様と父様というのは・・・・・・」

「死ね!」

人狼の少女は、浮竹の首をへし折った。

へし折ったように見えた。

実物を伴う幻影だった。

浮竹は、蔦の魔法で人狼の少女をぐるぐる巻きにして捕らえた。

「おのれ。こうなれば、共に死ね!ダークネスサンクチュアリ!」

「危ない、浮竹!」

京楽は、浮竹を庇って右手をなくした。

「京楽!」

「大丈夫、後で再生するから」

人狼の少女は、自分もダメージを被り、息も絶え絶えだった。

「君、名前は?」

「アスラン」

「この村の人に恨みがあるのか?」

「この村の若い連中が、母様を慰み者にして殺し、愉悦のために父様を拷問して、人狼の肉は不老だという伝説を信じて食べた。復讐をして、何が悪い!」

「そんな・・・・・・・」

浮竹は、京楽のなくなった右腕をとりあえず止血して、人狼の少女に回復の魔法をかけるが、効かなかった。

「これは闇の禁忌。そう簡単には治せない。私はもうすぐ死ぬ。でも、その前にお願いだ、母様と父様を殺した連中の罪を、贖うようにして」

「分かった。それが真実なら、罪を贖わせよう」

「ありがとう。これで、安心して私も母様と父様の元にいける」

「アスラン!」

知り合ったばかりのアスランは、安らかな顔で死んでいった。

「夜が明けたら、村の連中を魔法で尋問しよう。アスランが言っていたことが本当だったら、警察に引き渡そう」

「うん、そうだね」

浮竹は、京楽のなくなった右腕の傷にキスをして、命の炎を燃やして再生させた。

「ゴッドヒール」

「自分で再生できるのに」

「いや、酷い呪詛がかかっていた。命の火を燃やさなければ再生できないだろう」

「浮竹、僕のために寿命が短くなったの?」

「天使も堕天使も長い時を生きる。少しくらい短くなっても平気だろう」

「そんなのやだよ!」

京楽は叫んだ。

そして、浮竹を抱きしめた。

「君は僕のものだ。君の命の火も、僕のものだ・・・・・・」

「んっ」

貪るような激しいキスを受けて、浮竹は京楽の背に手を回した。

「こういうのは、全て終わってからにしてくれ」

「うん、分かった」


結局、村の若い連中を、嘘を見破る魔法で尋問すると、アスランの母親と父親を殺したのは事実であると分かり、警察を呼んで捕縛してもらい、殺しに関わった村人の大半が豚箱いきとなった。

報酬の金は払ってもらえなかったが、浮竹も京楽も、仕方ないとして受け入れた。

「アスラン、かわいそうだったね」

「でも、復讐でも人殺しはだめだ」

「そうだね」

報酬金の代わりに、村長のお宝の魔石を、京楽はしっかりともってきていた。

冒険者ギルドに売ると、金貨200枚になった。

「村長だけ贅沢してたっぽいからねぇ」

「まぁ、村長も事件に関わって豚箱いきだしな」

浮竹は、京楽のしでかしたことに目をつぶった。

「ねぇ、全部終わったよ。続き、してもいい?」

「あ、寝室で・・・・・」

「もう待てないよ」

京楽に押し倒されて、浮竹は目を閉じるのであった。





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堕天使と天使外伝

『貸し切りのプール?』

「そうだ。京楽がどこかのマダムから奪い取ってきた金で、レンジャー施設のプールを貸し切りにしたらしい」

フェンリルの浮竹は、尻尾をばっさばっさと振って、天使の浮竹は、堕天使の京楽に金を貢がされたマダムがかわいそうだと思っていた。

「奪い取ったなんて人聞きの悪い。ちゃんと依頼を達成してもらった報酬金だよ」

「額が多すぎる」

「それは依頼人が決めることで、浮竹たちは心配しなくていいよ。ということで、プールに行こう!いいよね、ヴァンパイアの僕!」

『構わないけど、フェンリルの浮竹には耳と尻尾があるから、尻尾の穴のあいた水着を作らないと』

「そんなこともあろうかと、ちゃんと準備しておきました!」

堕天使の京楽は、浮竹サイズの水着に尻尾用の穴があいたものを取り出した。

『なんでそんなの用意周到なのさ』

「だって、ないと行かないっていいだしそうだから」

「まぁ、せっかく貸し切りにしてもらったんだ。遊びにいこう、フェンリルの俺にヴァンパイアの京楽」

天使の浮竹は、フェンリルの浮竹の尻尾の振り具合に苦笑していた。

『施設のプールって、ウォータースライダーなるものがついているんだろう!?』

「ああ、ついてるぞ」

フェンリルの浮竹は、施設のプールのパンフレットに目を通していた。

『行こう!滑ってみたいし、泳ぎたい!』

「貸し切りだから、フェンリル姿で泳いでも大丈夫だぞ」

『それは助かる!』

黒猫になった堕天使の京楽と違って、フェンリルの浮竹はフェンリルの狼姿になって人型に戻っても、ちゃんと衣服は着ていた。

こうして、4人は施設のプールに出かけるのであった。


『ひゃっほおおおお』

もう何度目かになるか分からない、ウォータースライダーを滑り落りて、フェンリルの浮竹は次には狼姿になって犬かきで泳いでいた。

『僕は、泳ぐのはあまり得意じゃないから、ここでまったりしてるよ』

施設は外にあるので、さんさんと降り注ぐ太陽の光にやられそうで、ヴァンパイアの京楽はビーチパラソルの下で、冷たいオレンジジュースに氷をいっぱいいれて、魔法で自分のいる空間だけを冷やして涼んでいた。

『京楽も滑ればいいのに』

『僕はああいうの苦手』

『じゃあ、一緒に滑ろう、天使の俺!』

「ああ、いいぞ」

浮竹たちは、手を繋いで歩き出す。

それに、堕天使の京楽が何か言いたそうにしていたが、我慢していたが、何度も一緒に滑り落ちる姿に言葉を出す。

「ちょっと仲良すぎじゃない?もうちょっと離れてくれないかなぁ」

『なんだ、堕天使のラフレシアの臭い京楽。洗ってないパンツの分際で、文句があるのか!』

「洗ってないパンツの分際ってなにそれ!ちゃんとパンツは毎日洗濯してますぅ!僕の浮竹を取り上げないでよ」

『別に取り上げてなんか・・・・天使の俺、俺と一緒に居るのは嫌か?』

「全然そんなことないぞ。楽しい。京楽はほっといて、かき氷を作ろう!」

『あ、俺メロンシロップがいい!あといちごも!』

「楽しそうだねぇ」

ヴァンパイアの京楽が、かき氷を作り始めた天使の浮竹からかき氷を受け取って、悩んだ末にブルーハワイのシロップをかけた。

『この、なんとも健康に悪そうな色がいいね』

『あ、京楽、半分くれ。俺のも半分やるから』

『はいはい。じゃあ、半分こずつ食べようか』

そんな仲睦まじげな様子を見て、堕天使の京楽も自分が食べていた練乳のかき氷を見て、天使の浮竹のいちごのかき氷を見た。

「やらんぞ。半分個しなくても、また作ればいいだけだ」

「くすん」

いちゃつきたかっただけなので、京楽は練乳のかき氷を一気に食べてしまった。

堕天使の京楽は、何度もかき氷を食べた。

そして、案の定腹痛に襲われた。

「あんなにかき氷を食うからだ」

『ラフレシアの京楽は、腹を壊したのか。かき氷の食いすぎだ」

堕天使の京楽が苦しんでいる姿に、ふりふり振っていた尻尾はぺたんとなっていた。

ツンデレな言葉とは裏腹に、尻尾は正直で、心配しているようだった。

『腹をくだすラフレシアの京楽は、飯を作れないだろう。天使の俺、今日は俺と京楽の館に泊まらないか?』

「いいが、いいのか?」

『浮竹がそう言ってるんだよ。問題ないなら、泊まっていってよ』

「ぬおおおおおおおお、トイレえええぇぇぇぇ」

「アホは放置するか」

「アホじゃないトイレ・・・ぬおおお、掃除中!こうなったら、黒猫姿でしてやる!」

堕天使の京楽は黒猫姿になると、茂みの中に消えてしまった。

『黒猫姿だからいいけど、人型だったらノグソだね』

『うわ、エンガチョ』

「じゃあ、京楽はほうっておいて、館にいこうか」

『うん、おいで』

『歓迎するぞ!』

その日、天使の浮竹はヴァンパイアの京楽とフェンリルの浮竹が作ったサンドイッチとカルボナーラを食べた。

夜は、浮竹たちは二人で同じベッドで眠った。

『うーんラフレシア・・・・洗ってないパンツ・・・・・』

「どんな夢を見ているんだか」

天使の浮竹は苦笑して、同じように夢の中に滑り落ちていった。



「にゃあああああああ!!」

朝起きると、黒猫の京楽がかりかりとベッドをひっかいていた。

フェンリルの浮竹に抱き着かれて、天使の浮竹は起きるとフェンリルの浮竹を起こした。

「朝だぞ」

「にゃああああ!浮気にゃあああ!!!」

「どこぞのマダムに、手でも出したんだろう?」

「偽りの言葉だけだよ!」

フェンリルの浮竹は起きると、黒猫の京楽を見て、尻尾をばっさばっさと振った。

『追いかけっこするか!』

「しない!ただ浮竹を迎えにきただけだよ!」

『鬼は俺だ!天使の浮竹も、一緒に追いかけっこしよう』

「朝からハイテンションだな」

『昨日いっぱい遊んだけど、今日も遊びたい!』

フェンリルの浮竹はばっさばっさと尻尾をふって、寝ぼけ眼で黒猫の京楽をおいかけてくわえて戻ってきた。

『くさい。洗ってないパンツの味がする』

「じゃあくわえなきゃいいじゃない!」

『くわえないと、お前逃げそうだったから』

「ああもう、僕は逃げるよ!帰るよ、浮竹!」

「あ、ああ。フェンリルの俺、それにヴァンパイアの京楽、またな」

京楽は、浮竹をおいて先に逃げるように自分の世界に戻っていった。

『まぁ、うちの浮竹はこんなんだけど、そっちのボクのこと、それなりに気に入っているようだから』

「ああ、分かっている」

『またなぁ、天使の俺!また近いうちに遊ぼう!』

「ああ、またな」

フェンリルの浮竹は、尻尾をばっさばっさと振っていた。

尻尾の振り過ぎじゃないかってくらい振ってるので、天使の浮竹は苦笑しながら帰るのであった。

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堕天使と天使21

天使の浮竹は、フェンリルの浮竹と一緒に行動していた。

フェンリルの浮竹は狼の耳をぴこぴこさせて、尻尾をぶんぶん振っていて、喜んでいた。

2人は、いわゆるデートなるものをしていた。

ただし、すぐ近くに堕天使の京楽とヴァンパイアの京楽という保護者つきだが。

『次、あれを食おう。あれ、甘くて俺は好きだ』

天使の浮竹のいる世界でデートしているため、クレープ屋さんがあった。

「そんなに急がなくてもいいぞ。違う味を2つ買って、お互い半分に分け合おう」

『お、それはいいな。よし、俺はバナナ味で!』

「じゃあ、俺はチョコ味で頼もう」


仲睦まじく、デート(?)を楽しむ二人を、ヴァンパイアの京楽は二人ともかわいいなぁと思いながら、一方で堕天使の京楽はムキーーーと苛立っていた。

「ちょっと、ヴァンパイアの僕!あの二人、間接キスになるようなことしてるよ!」

『実際にキスしたことあるんだから、その程度で目くじらはたてないよ』

「ムキーーーー!!!ちょっと、僕、行ってくる!」

『だーめ。ボクの浮竹が心から楽しんでるんだから、邪魔はさせないよ』

「君はどっちの味方なんだい!」

『もちろん、ボクの浮竹の味方さ』

2人の浮竹は、ウィンドウショッピングを楽しみ、ゲームセンターで1時間ほどゲームをしてクレーンゲームからでかいぬいぐるみをゲットしていた。

最後に、夕飯にファミリーレストランに入り、夕食を食べていろんな話に花を咲かせていた。

「じゃあ、今日はここで。楽しかったぞ」

『お、俺も楽しかった!また、で、デートしてくれ!』

「デートっていうか、ただ遊んでるだけな気がするが・・・・まぁ、いいぞ」

『やったぁ!あ、京楽!』

同じファミリーレストランで夕食をとっていた京楽たちに気づいて、フェンリルの浮竹はヴァンパイアの京楽に、でかい熊のぬいぐるみを押し付けた。

『ゲームセンターなる場所のクレーンゲームでとれたんだ。やる』

『かわいいね。洋館の寝室にでも飾ろうか。今日は楽しかったかい?』

『うん、すごい楽しかった。臭い堕天使の京楽のパンツを洗っていない匂いがたまにしてたのだけが嫌だったけど、楽しめた』

2人の京楽が、こっそり後をつけていたことには2人の浮竹も気づいていた。

「ちょっと待ってよ。僕が臭いってなってしまうの分かるとして、なんでパンツを洗ってない匂い!?そんなのかいだことあるの!?」

『ない』

「じゃあ、そんなこと言わないでよ!」

『お前は絶対洗ってないパンツの匂いだ!ラフレシアでも可』

「まぁ、京楽、ついてくるなと言ってったのについてきていたお前も悪いんだぞ」

天使の浮竹が、堕天使の京楽に助け舟を出すどころか、一緒に非難した。

「酷い!僕はフローラルないい匂いしかしないよ!」

「まぁ、フェンリルの俺もヴァンアイアの京楽も、今日はこれでお開きにしよう。楽しかった。また、機会があれば遊ぼう」

『ああ、またデートしてくれ!』

『浮竹がすごく楽しそうだから、ボクからも頼むよ』

「僕の浮竹は僕のものですぅ。デートなんてもうさせない!」

『カラミティファイア』

怒ったフェンリルの浮竹に尻を燃やされて、堕天使の京楽は飛び上がった。

「あちちちちちち!」

急いで魔法で水を出すと、火を消したがけつの部分の服がこげて、尻が丸見えになっていた。

『う、汚いものを見てしまった・・・・・・』

『何かで隠しなよ。同じ顔してるだけあって、地味に恥ずかしい』

堕天使の京楽は、アイテムポケットからバスタオルをとりだして、それを腰にまいて一時的なしのぎとすることにした。

「まったく、狂暴なんだから・・・・・」

『何か言ったか?』

「なんでもありません」

フェンリルの浮竹とヴァンパイアの京楽は、自分の世界にクマのでかいぬいぐるみと一緒に帰ってしまった。


「悠長に遊んどる暇あるんかいな。自分が狙われてるって自覚、もったほうがええで」

現れたのは、市丸ギンだった。

ざっと臨戦態勢になる浮竹と京楽だったが、ギンは楽しそうに笑った。

「そないに構えなくても、今日はなんもせぇへん。藍染は大天使長ミカエルの力を取り込んだ反動か、眠りについているし、しばらくの間は平和や。でも警戒を怠るのは感心せんな」

「藍染が眠り・・・・・父様は無事だったが、大天使長の力を奪うからそうなるんだ」

「藍染・・・・昔から、力を求めてたからねぇ」

藍染もギンも、そして京楽も世界で始めの天使といわれる、神の12使徒であった。

長くを生き、堕天したのは京楽だけではない。

ギンと藍染も堕天使に堕ちていた。

「藍染は、しばらくしたら動きだすで。そん時は、ボクも敵にまわるさかい、気ぃつけや」

「市丸!なぜ君ほどの人物が藍染なんかに従う!」

「さぁ、なんでやろな。ボクにもよう分からんわ。ただ、守りたいものがあって、それを守ってくれた。その恩返しかもなぁ」

市丸ギンには、松本乱菊という守りたい存在の女性がいた。

同じ堕天使で、悪魔に堕ちそうになったところを、藍染が助けてくれた過去があった。

悪魔は、完全に天使や神の敵だ。

容赦なく殺される。

その分堕天使はあいまいで、天使も神も扱いに困っていた。

「守りたい者がいるなら、守り通しや。ボクから言えるのはそれだけや」

「市丸!」

京楽が名を呼ぶが、市丸ギンは空気に溶けるようにいなくなってしまった。



「神の12使徒・・・・なぜ、同胞だった者たちで争わないとけないんだろう」

「京楽・・・」

浮竹が、京楽の背をなでた。

京楽は、浮竹を抱きしめる。

「浮竹、僕は君を守る。守り通してみせる」

「俺は、守られてばかりいるほどやわじゃないぞ」

「知ってる。でも、藍染は神の12使徒の中でも一番の強者だった。神に堕天使にされたことに怒り狂い、神を殺そうとして逆に殺された。なのに、転生を繰り返して悪魔やら堕天使として生まれてくる。もしも戦うことになったら、もう転生しないように呪いをかけるしかないね」

「呪いか・・・・」

天使である浮竹には呪詛は専門外だったが、堕天使である京楽には使えるようだった。

「藍染・・・・居場所が分かれば、眠りについている間に叩きたいところだけど、市丸がついてるし、居場所も分からないから、とりあえず次の襲撃に備えよう」

「ああ、そうだな」

いつ、どこで襲ってくるかも分からない。

そんな存在は、今は眠りについている。

その眠りが長いのか短いのかは、誰にも分らなかった。

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堕天使と天使20

その日は、京楽の誕生日だった。

浮竹はヴァンパイアの京楽のところに行ってこいと、京楽を追いだして、キッチンで豪華な料理をつくり、ケーキを作った。

「味は大丈夫だと思うんだがな。なにせ相手は三ツ星レストランでコックもしていた経験のある京楽だ。さて、京楽を呼び戻すか」

スマホで、京楽に連絡を入れる。

電話ではなくて、メールにした。

「早く帰ってこいよ・・・・・・」

追い出しておいて、用意ができると帰ってこいというのは、ちょっとどうかと思ったがまぁいいかと思った。

帰ってきた京楽は、テーブルの上に並べられた京楽の好きなメニューのご馳走と誕生日ケーキに目を輝かせた。

「これ全部、浮竹が一人で作ったの?」

「ああ、そうだ。味はお前の作ったものには劣るかもしれないが・・・・・」

「そんなことないよ!愛情のこもった料理は何より美味しいんだから!」

京楽は、浮竹と一緒にご馳走を食べて、京楽のバースデーケーキを食べた。

「あと、これは誕生日プレゼントだ」

そう言って、浮竹が渡してきたのは、サファイアでできたカフスボタンだった。

「ありがとう!大事にしまっておくよ!」

「いや、ちゃんと使ってくれ。サファイアといってもそんなに高くない石を選んだから、日常的に使っても大丈夫だ」

京楽は、浮竹に抱き着いた。

「うわ!いきなりなんだ!」

「僕って、愛されてるなぁと思って」

「そりゃ、愛してるぞ。俺の伴侶なのだから」

「このまま、浮竹もいただいていい?」

「む・・・今日だけだぞ」

2人は、寝室に向かっていった。



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「加減を覚えろ」

情事の後、へろへろになった浮竹に、怒られてぶたれまくったので黒猫姿になって、にゃあにゃあいってそれ以上ぶたれないようにした。

「む、卑怯だぞ。黒猫になるなんて」

「むふふふふ。今日はいい日だなぁ。かわいかったなぁ、抱かれてる浮竹」

「それ以上言ったら殺すぞ」

浮竹は、拳を振り上げた。

「にゃあああ。簡便してよ」

「くそ、黒猫は京楽だってわかっているのに殴れない・・・・・・」

「ふふふ、僕のこの愛らしい姿の前には浮竹もメロメロだね」

「言ってろ」

「・・・・・・・だよ」

「?何か言ったか?」

「ううん。なんにも」

「ここだよ・・・・・・」

その声は次第に大きくなり、浮竹にだけ聞こえた。

「声がする。懐かしい・・・・・」

「浮竹?」

「ここだよ。私の復讐のためのかわいい天使」

浮竹は、声が聞こえるほうに歩き出す。

「どこへ行くの浮竹!」

「声がする・・・・俺を呼ぶ声が・・・・・」

「行っちゃだめだ、浮竹!くそ、なんで体が動かないんだ!」

京楽は、金縛りにあったように体が動かなかった。

浮竹は、窓を開けて6枚の翼を出すと、宙に羽ばたいた。

「ここだよ、私の復讐のためのかわいい浮竹」

宙に浮いていたのは、黒い6枚の翼をもつ堕天使だった。

手配書に描かれていた顔そっくりで、すぐに藍染だと分かった。

「藍染、僕の浮竹に何をするつもりだ!」

「なぁに、ちょっと借りるだけだよ。殺しはしないから安心したまえ」

「藍染・・・・・?ミカエル父様ではないのか?」

「ミカエルの血を少しいただいただけだ。ミカエルと同じ気配になるためにね」

浮竹には、藍染が実の父のミカエルに見えていた。

「父様・・・・・・」

「さぁ、行こうか浮竹。君のセラフの力を、貸してもらうよ」

「行かせるか!」

京楽はなんとか金縛りから脱出して、藍染と同じ6枚の黒い翼を出して人型の堕天使に戻ると、藍染に禁忌の魔法を放った。

「ファイナルフレア!」

「おや、動けるのか・・・・」

夢遊病のようにふらふらと、羽ばたいて藍染のところに行こうとしていた浮竹が正気に戻った。

「京楽!?俺は何を・・・・・」

「ちっ。まぁいい、今夜は挨拶代わりだ。またくるよ、浮竹。その時は、君は私の道具として働いてもらうよ」

「藍染!?ミカエル父様の匂いがする!父様に何をした!」

「少し血をもらっただけさ。生きてはいる。まぁ、一度力を一緒にとりこませてもらったから、ミカエルは用済みだ。もう手は出さないから、安心したまえ」

「藍染、浮竹に手を出すなんて許さないよ!エターナルアイシクルフィールド!」

「カウンターマジック」

京楽の出した氷の禁忌魔法は、藍染の手で跳ね返されて、京楽はそれをバリアで防いだ。

「く・・・・魔法が効きにくいのか」

「ふふふ。思い出すね、同じ12使徒だった時代を。私はギンにも手を貸してもらっている。ギンも、同じ12使徒だったね」

「市丸ギンか!」

同じ神の12使徒であり、京楽や藍染のように堕天使に堕ちた者、それが市丸ギンだった。

「なんや、争いごとは嫌いやで」

市丸ギンも、その場に何気なく存在していた。

「藍染、今回は失敗かいな。今度は成功するようにしいや」

「行くよ、ギン。じゃあ、また会おう、浮竹、それに12使徒であった京楽」

「二度と来るな!浮竹に手を出したら、生きていることを後悔させてやるからね!」

「だそうだよ、ギン」

「おおこわ。京楽も性格変わったなぁ。昔は色欲魔の無節操だったのに、この浮竹って子のことになると、そんなに怒るんかいな」

「ギン、藍染なんかに力を貸すな!」

ギンは、笑った。

「そんなこと言われても、命の鍵である核を握られとるからなぁ。まぁ、ほどほどに付き合って核解放してもろて、自由になるわ」

「ではね」

藍染とギンは、空気に溶けるようにいなくなってしまった。

京楽は、震える浮竹を黒い翼で包み込む。

「安心して。僕が、君の傍にいる。君に手を出させたりしないよ」

「京楽・・・・・・」

夜の風を受けながら、2人は藍染とギンが溶けていった空間をただ黙して見ているのだった。








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